シリア情勢、主導権争いで不安定化招くな
米軍主導の有志連合、ロシア、イランおよびシリアがシリア国内で過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦を展開する中、有志連合とシリアが交戦するケースが相次いでいる。
IS掃討後の情勢をにらんでの主導権争いが背景にあるが、地域の不安定化を招いてはならない。
IS掃討後をにらむ
米軍のFA18戦闘攻撃機は今月中旬、シリア北部タブカ近郊でアサド政権軍のスホイ22爆撃機を撃墜。米中央軍は、有志連合が支援するクルド人主体の民兵組織「シリア民主軍」(SDF)の戦闘員らの近くで政権軍機が爆撃を加え、SDF側に負傷者が出たことに対する「自衛措置」と説明した。
シリアでは5月以降、有志連合と政権派との交戦が散発的に発生しているが、政権軍機の撃墜は米軍が2014年に開始したシリア軍事作戦で初めて。有志連合は撃墜後、「われわれの任務はIS打倒であり、アサド政権や政権派勢力、ロシアとの戦闘は望まない」との立場を表明した。
これに対し、ロシア国防省は「シリアに対する恥知らずな主権侵害だ」と政権軍機撃墜を激しく非難。偶発的衝突回避のための米露合意を即時破棄すると表明した。IS支配地域が縮小し、各地にさまざまな勢力が混在する中、衝突回避の合意がなくなれば、米露間も含めて偶発的な交戦の可能性は高まる。
一方、イラン革命防衛隊はシリア東部デリゾール県にあるIS拠点を複数のミサイルで攻撃した。イランの首都テヘランで国会議事堂とイラン・イスラム革命の指導者、故ホメイニ師を祭る聖廟が襲撃された連続テロ事件に対する報復としている。
このように現地情勢の緊張している背景には、IS掃討作戦が進む中、IS追放後をにらんだ各勢力の主導権争いが強まっていることがある。
イランがミサイル攻撃したシリア東部には産油地域があり、イラクの首都バグダッドとシリアの首都ダマスカスを結ぶ陸路として重要視されている。ロシアの支援を受けるイランとシリア、イラクのシーア派勢力はIS掃討後、支配下に置くことを目指している。実現すれば、イランが地中海岸まで支配を拡大することになる。
イランがシリアでの影響力を増せば、国境を接するイスラエルにとっても「現実的な脅威」となる。地域の不安定化を招かないか心配だ。
もっともアサド政権はシリア内戦で多くの自国民を虐殺し、その正統性は失われている。シリア北西部の反体制派支配地では今年4月、猛毒の神経ガス、サリンによるとみられる攻撃で多数の民間人が死亡。米軍はシリア中部の空軍基地に巡航ミサイル「トマホーク」50発以上を撃ち込んだ。国際社会は政権退陣への道筋を付ける必要がある。
容認できぬ化学兵器使用
米ホワイトハウスによれば、アサド政権は再び化学兵器による民間人への攻撃を準備している可能性がある。シリアも加盟している化学兵器禁止条約は、開発や生産、使用を禁じている。残虐で非人道的な化学兵器の使用は容認できない。