アラブ諸国に広がる対米不信 オバマ氏、GCC首脳らと会談

 オバマ米大統領は4月20日、サウジアラビアのサルマン国王と会談し、21日、サウジ主導の湾岸協力会議(GCC)首脳会議に参加した。中東から逃げ腰で、過激派組織「イスラム国」(IS)の台頭まで招き、塗炭の苦しみを中東と全世界に拡大させたオバマ氏が、湾岸諸国との関係修復し得たのか、検証してみる。(カイロ・鈴木眞吉)

対イラン政策などで依然溝

親米ヨルダンのメディア、シリア後方支援は「臆病で優柔不断」

 サウジのオバマ氏に対する疑念は、民主化を求めた2011年の「アラブの春」運動で、イスラム教スンニ派国家エジプトのムバラク政権崩壊を容認したことに始まった。シリア内戦に本格介入しないことも、サウジの不満を募らせた。最大の不快要因は、昨年7月のイラン核合意だ。湾岸諸国は「オバマの裏切り」と断じた。

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4月20日、サウジアラビアのリヤドで、サルマン国王(手前左)の出迎えを受けるオバマ米大統領(同右)(EPA=時事)

 エジプト人民議会のサダト議員は、早くからオバマ氏の外交感覚に疑念を呈し、「大統領ではない一市民の感覚しか持ち合わせていない」と指摘、「世界のために、直ちに大統領が交代することを切望している」と訴えていた。

 サルマン国王は今回、湾岸諸国首脳を空港で出迎えたにもかかわらず、オバマ氏だけは出迎えなかった。

 一連の会談の地ならしとして設定された、カーター米国防長官とGCC国防相との会合で双方は、イランの台頭でペルシャ湾岸地域の安定が損なわれる事態阻止のため、一致して対応していく方針を確認、GCCは、イランによる地域の過激派支援などに懸念を表明した。さらに、イランの脅威を想定したミサイル防衛(MD)の統合運用実現に向けた措置の検討も確認した。一方でカーター長官はGCCに、IS掃討を目指すイラク政府との外交関係拡充と、財政支援の検討を要請した。米国はGCC諸国の安全を最大限守る姿勢を示す代わりに、イラクへの財政支援を要請したのだ。

 GCCがイランを警戒するのは、イランの基本政策が、イラン・イスラム革命の近隣諸国への輸出にあり、先兵として、レバノンのイラン系イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラと、イエメンのシーア派フーシ派を活用、中東各国にシーア派基盤を浸透させているからだ。イラクとレバノン、シリア、イエメン、バーレーンなどがその標的になっている。イランからイエメンへの武器密輸防止のための海洋安全保障能力の向上や対過激派特殊部隊の育成なども協議された。

 オバマ氏と国王の2時間半にわたる会談では、シリア情勢やIS掃討作戦などを協議、両首脳は、イランのシーア派勢力支援による地域不安定化阻止のため、「包括的な取り組み」を進めることで合意した。ホワイトハウスは、「両首脳は歴史的な友好と戦略的関係を再構築した」との声明を発表した。ただ、具体策は打ち出されなかったことから、両国関係の良好ぶりを「演出」するだけにとどまったようだ。

 オバマ氏は国王にサウジの人権問題へ懸念を表明したとされる。会談後の声明では、両国間に不一致が存在することを確認、米当局者は、「解決の場ではなく、対話の始まり」と位置付けた。いかに関係が冷え切っていたかが分かる。

 21日のGCC首脳との会談では、①地域の安定②ISや国際テロ組織アルカイダへの対応③イランの域内の挑発行動への対応-が話し合われ、「過激派組織打倒に向けたさらなる措置を講ずる」との共同声明を発表した。イランについては「地域を不安定化する動きに警戒を続ける必要がある」と明言、ミサイル防衛網整備への米国の協力強化や、合同軍事演習の来年3月の実施を決めた。シリアについては、アサド政権の退陣と政権移行の必要性を確認した。

 オバマ氏は会談後の記者会見で、「責任ある役割を果たすイランは歓迎する」と発言、イランとの対話の必要性に理解を求めた。対イランで溝の深さが浮き彫りになった形だ。

 オバマ氏は25日、ドイツで演説し、IS掃討に向けたシリアでの後方支援作戦に、米軍特殊部隊最大250人の増派を承認した。既に派遣している50人と合わせ300人となる。

 しかし、親米ヨルダンのメディアは、派遣規模が小さく「臆病で優柔不断」と断じ、オバマ氏の5年間の腰の引けた政策がロシアの介入を許したと指摘した。米軍の退役陸軍大将のジャック・キーン氏は、首都ラッカ奪取には程遠いと指摘、オバマ氏を批判した。

 今やアラブ諸国指導者の誰一人オバマ氏に期待していない。ウサマ・ビンラディン殺害から5年の5月2日、オバマ氏はCNNとのインタビューで、「世界は依然危険だ」と他人事のように語った。