経済・社会改革を進めるサウジでの人権侵害へ懸念伝える英サイト

伝統衣装屋のマネキン=サウジアラビア

人権抑圧を「隠蔽」?
 経済の脱石油依存へ、経済・社会的改革を進めるサウジアラビア。実質的な最高権力者ムハンマド皇太子の下で、外資の導入や、欧米文化への開放が進められているが、女性の権利の制限など、国内の人権状況への懸念は依然残っている。

 サウジ紙アラブ・ニュースによると、来年1月にサウジで開催される自動車レース、ダカール・ラリーへのサウジ人女性ドライバーの参加が認められた。サウジ人女性のダカール・ラリーへの参加は初めてで、女性の権利向上の一環として歓迎される一方で、人権団体は、依然続く国内の人権抑圧を「隠蔽(いんぺい)」するためとの非難の声も上がる。

 イスラム教最大の聖地を擁する中東の大国サウジは長年、イスラムの厳格な解釈の下で、非イスラム文化を拒否してきた。同時に女性の権利が制限され、女性は外出時に、スカーフなどで髪を隠すことが義務付けられている。

 ところが、改革の一環として、女性のスポーツ観戦が認められ、2018年には女性の自動車の運転が認められた。

 サウジでは、昨年からダカール・ラリーが行われている。これも、外資を呼び込むための改革の一環。参加を認められたのはダニア・アキールさんとマシェル・オベイダンさんの2人、アキールさんは19年からアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどでレースに参加してきたサウジきっての女性ドライバーだ。

 英ニュースサイト、ニュー・アラブでオベイダンさんは、「夢がかなう。…扉が開き、壁が壊れていることが分かった」と女性の社会進出に他の女性らが続くよう呼び掛けている。

女性活動家を拷問か

 一方で、18年に「国家の安全」を脅かそうとしたとして懲役刑を受けて服役していた女性人権活動家ルジャイン・ハズルールさんが、今年2月、ようやく釈放された。女性の自動車の運転の許可などを求めて活動していたハズルールさんは、脅迫や拷問を受けた疑いも持たれている。

 また、サウジでは今月初めに、フォーミュラーカーレースの最高峰F1のサウジ・グランプリ(GP)が実施されたばかり。レース前には、トルコで殺害されたサウジ人コラムニスト、ジャマル・カショギ氏の婚約者だったハティジェ・ジェンギズさんが米紙ワシントン・ポストに投稿し、カナダ人歌手ジャスティン・ビーバーさんにGPでの公演をキャンセルするよう求めていた。米情報機関は、カショギ氏殺害をムハンマド皇太子が承認していたとの結論を下しており、ジェンギズさんはポスト紙で、「批判する者を殺害してきた政権の信頼の回復」に利用されると訴えた。

 米誌ビルボードによると、人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチも、国内の人権侵害から目をそらすためのものであり、出演を拒否すべきだと訴えた。

 サウジでは18年にも、親日で知られる米国の有名歌手マライア・キャリーさんの公演が行われ、物議を醸した。カショギ氏殺害の直後だったことが大きな要因だ。人権活動家らからも非難の声が上がった。欧米歌手の公演など数年前なら考えられなかったことで、ムハンマド皇太子からの意向を受けたものであることは間違いないだろう。

富裕層“限定”の公演

 ビルボードによると、チケットは約80㌦、VIP席は530㌦で、サウジの平均年収が2600㌦であることを考えれば、ごく一部の富裕層だけのもの。開催地は、「壁に囲まれ外国人や入場が認められた一部のサウジ人しか入れない町キング・アドドラ・エコノミック・シティー」で開催され、人権、国民の生活とは無関係との見方を同誌は示している。

(本田隆文)