イスラエル、モロッコと防衛協定に署名

軍事・情報支援が可能に

2020年12月22日、ラバトで、モロッコ国王モハメド6世(中央)と会談するイスラエル国家安全 保 障 会 議(NSC)のベンシャバト議長(左)やクシュナー米大統領上級顧問(左から2人目)=モロッコ王室提供(AFP時事)

 イスラエル国防相の初めてのモロッコ公式訪問により、イスラエルとモロッコは11月24日、安全保障協力、情報共有、防衛産業、サイバーセキュリティーなどの分野で防衛協定に署名した。これにより、イスラエルはモロッコが必要とするすべてを支援することが可能となった。
(エルサレム・森田貴裕)

アラブ諸国との関係強化期待

 イスラエルのガンツ国防相は24日、モロッコの首都ラバトでルディ国防管理担当特命相と会談し、両国間の防衛協力に向けた覚書に署名した。この署名はイスラエルとアラブ諸国間では史上初となった。ガンツ氏は「今後、両国は共同プロジェクトに取り組み、軍事産業の協力を進めることができる。両国の関係を拡大し、強化する必要がある」と述べた。また、イスラエルとの国交正常化に踏み切る国が増えることへの期待を表明した。

 イスラエル国防省のパルティ政治軍事局長は24日、記者団に対し「今回署名した協定により、モロッコに情報や軍事演習において協力可能となった。イスラエルの利益に応じて、モロッコが必要とするすべてを支援することができる」と語った。

 イスラエルとモロッコの両国は、中東からアフリカにも活動を拡大している過激派組織「イスラム国」(IS)や国際テロ組織アルカイダなどテロの脅威と戦ってきた。

 モロッコが直面している主な脅威は、領有権争いが続く北アフリカ西サハラ地域に独立国家を樹立しようとする独立派武装組織「ポリサリオ戦線」と、それを支援する隣国アルジェリアだ。イスラエルと敵対関係にあるイランや、イランの支援を受けるレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラも、ポリサリオ戦線を支援するなど、モロッコとアルジェリアの紛争にある程度関与しているとされている。

 モロッコ政府は、声明で「防衛ならびにサイバーセキュリティーの分野で合意に至った。両国の関係をより強固にする希望が見えた」と述べた。また、モロッコ国内のユダヤ人コミュニティーとイスラエルにいるモロッコ系ユダヤ人社会の重要性について言及した。

 1948年のイスラエル建国後、モロッコから20万人以上のユダヤ人がイスラエルに移住したとされる。現在、モロッコ国内には少数のユダヤ人コミュニティーがあり、イスラエルにいるモロッコ系ユダヤ人は約50万人。

 93年のイスラエルとパレスチナの和平合意(オスロ合意)を受け、翌年にはモロッコの首都ラバトとイスラエルの都市テルアビブに、両国の連絡事務所が設置された。両国は正式に関係を発展させる以前からも、多くのスパイ活動や軍事協力を行ってきた。67年のイスラエルとアラブ諸国との第3次中東戦争に先立って、イスラエルの対外情報機関モサドがカサブランカで行われたアラブ諸国の会議に集まったアラブ軍司令官の部屋を盗聴し、イスラエルに重要な情報を提供していたが、これにモロッコが協力していた。イスラエル人ジャーナリストでモサド研究家のロネン・バーグマン氏によれば、イスラエルは65年、モロッコ国王と対立しフランスのパリに亡命中だったモロッコの野党左派政党指導者ベン・バルカ氏の誘拐に協力していたという。

 モロッコは第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)の勃発により、2000年にイスラエルとの関係を公式に停止し、テルアビブの連絡事務所を閉鎖したが、両国はその後も、互いの情報機関を通じてある程度の連絡を維持していた。

 トランプ前米政権時に達成されたイスラエルとアラブ4カ国の国交正常化合意(アブラハム合意)の下で、イスラエルとモロッコの両国は昨年12月に関係を正常化している。トランプ前米政権は、モロッコのイスラエルとの関係の正常化と引き換えに、西サハラ地域に対するモロッコの主権を認めることを約束していた。

 イスラエルにとってモロッコとの関係は、アラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンとの関係のように対イラン包囲網を構築するためのものではないが、アラブ諸国が自然な形でイスラエルとの強力な関係を築くことができる可能性を示した。