イスラエル軍がレバノン空爆、報復の応酬激化

ヒズボラはロケット弾数十発

 イスラエル軍は5日、レバノンからのロケット弾攻撃の報復として、レバノン南部地域へ2013年以来となる空爆を実施した。一方、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラは6日、イスラエル北部に向けてロケット弾数十発を発射し、2006年夏の第2次レバノン戦争以来の激しい攻撃を行った。イスラエルとレバノンとの国境付近では報復の応酬で緊張が高まっている。(エルサレム・森田貴裕)

難民キャンプに発射装置

 レバノン南部から4日、イスラエル北部に向けロケット弾3発が発射され、うち2発が国境に近い都市キリヤットシュモナ近郊に着弾した。犯行声明は出ていないが、ロケット弾はレバノンを拠点とするパレスチナ人武装グループが、イスラエルとの国境に近いヒズボラが支配する地域から発射したとみられている。

イスラエル国境に近いレバノン南部で、イスラエルに抗議するイスラム教シーア派組織ヒズボラの支持者ら=5月14日(AFP時事)

イスラエル国境に近いレバノン南部で、イスラエルに抗議するイスラム教シーア派組織ヒズボラの支持者ら=5月14日(AFP時事)

 イスラエル軍は応戦し、ロケット弾の発射地点となったレバノン南部地域に向け砲弾100発以上を撃ち込み、かつてロケット弾発射拠点となっていた地域も含めて空爆を行った。

 ヒズボラは6日、レバノン南部からイスラエル北部に向けロケット弾19発を発射した。うち10発はイスラエル軍の短距離迎撃ミサイル「アイアンドーム」が迎撃し、6発がゴラン高原のレバノン境界付近に着弾した。イスラエル側に死傷者は出ていない。これを受け、イスラエル軍は報復として、レバノン南部のロケット弾発射地点に向けて砲撃を行った。

 ここ3カ月間でレバノンからイスラエル北部に向けたロケット弾攻撃は、パレスチナ人武装グループによるとみられる5回と、今回のヒズボラによる攻撃で計6回となる。攻撃の応酬の後、イスラエル軍報道官は記者団に対し「大規模な戦争へ向かうつもりはないし、レバノンとの国境で対立を強めたくもない」と述べた。

 ヒズボラ指導者のナスララ師は7日、第2次レバノン戦争記念日のテレビ演説で、「ヒズボラは、応酬の激化を回避するためにイスラエル軍が駐留するゴラン高原のシェバ農場近くの空き地を標的にした」と主張した。また、「われわれは、イスラエルとの戦争を望まないが、その準備はできている」と述べ、イスラエルの空爆に対しては、それ相応の報復攻撃を行うと警告した。

 8年ぶりに実施されたイスラエル軍の空爆で、レバノン南部地域の道路が破壊され、重要な輸送ルートは遮断された。イスラエル紙イディオト・アハロノトの軍事ジャーナリストであるロン・ベンイシャイ氏によると、今回の空爆はヒズボラだけでなくレバノン政府に対しても、イスラエルの主権が侵害された場合にはレバノンのインフラへの攻撃を躊躇(ちゅうちょ)しないという明確なメッセージになるという。

 第2次レバノン戦争当時、イスラエル政府は米国の要請を受けレバノンのインフラへの攻撃を控えた。停戦後、イスラエルの指導者らは、それがヒズボラとの戦闘を長引かせた戦略的誤りだったとして、将来の戦争には民間のインフラの破壊も含まれると警告している。

 イスラエルがイランの核開発計画に対し軍事力の行使を決定した場合、イスラエルへの攻撃という重要な役割を担うことになるヒズボラは、レバノンのミサイル生産施設やその他のインフラを標的とするイスラエルの空爆を懸念する。ベンイシャイ氏は、ヒズボラが発射した19発のロケット弾について、その優れたロケット発射能力を実証しようとしていた可能性があると分析する。

 イスラエル当局によれば、レバノンで経済の危機的状況と政治の空白が続いているにもかかわらず、レバノン南部のパレスチナ難民キャンプでは移動式ロケット発射装置がレバノン軍によって発見され、レバノン政府は驚愕(きょうがく)したという。

 イスラエルのベネット首相は8日、「レバノンからヒズボラや武装グループが発射したロケット弾のすべては、レバノン政府に責任がある」と述べた。

 イスラエル殲滅(せんめつ)を掲げるイランは、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスなどパレスチナの武装勢力にも武器や資金の支援を行っている。繰り返されるガザ紛争と同様、将来的にレバノン南部からイスラエル北部に向け定期的にロケット弾が発射される可能性がある。