イスラエル、パレスチナ エルサレム聖地で衝突

ガザ空爆、ロケット砲火の応酬

 エルサレム旧市街にあるイスラム教聖地ハラム・アッシャリフ(ユダヤ教呼称「神殿の丘」)で5月初旬に発生したパレスチナ人とイスラエル治安部隊の激しい衝突は、パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム根本主義組織ハマスやイスラム聖戦からのロケット弾攻撃とイスラエル軍による空爆の応酬へと発展した。また、イスラエル国内でアラブ系住民らによる暴動を引き起こした。
(エルサレム・森田貴裕)

イスラエルでアラブ系住民が暴動

 イスラム教の断食月ラマダンが始まった4月中旬以降、東エルサレムの旧市街ではパレスチナ人とイスラエル治安部隊との衝突が続いていた。この背景には、東エルサレムにおけるパレスチナ人立ち退き問題がある。シェイク・ジャラ地区でユダヤ人入植者らがパレスチナ人家族に立ち退きを要求し、エルサレム地方裁判所は今年初め、数十年前の購入を理由に、不動産はユダヤ人に属するとの裁定を下していた。

16日、パレスチナ自治区ガザに向けて砲撃を続けるイスラエル軍(AFP時事)

16日、パレスチナ自治区ガザに向けて砲撃を続けるイスラエル軍(AFP時事)

 イスラエルが1967年にヨルダンから東エルサレムを奪還したことを記念する「エルサレムの日」に当たる10日、ハラム・アッシャリフで、パレスチナ人暴徒が警官に投石などを行った。治安部隊は暴徒を鎮圧するためゴム弾や催涙弾を発射し、イスラム教礼拝所「アルアクサ・モスク」に突入し、300人以上が負傷した。

 聖地でのイスラエル当局の行動に対し報復を警告していたハマスは10日、ガザ地区からエルサレムなどに向けてロケット弾を発射した。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、「ハマスは一線を越えた。重い代償を払うことになる」と述べ、イスラエル軍は報復として、ガザ地区にあるロケット発射台や軍事拠点、ハマス関連施設など多数の標的に空爆を行った。

 その後も連日、ハマスやイスラム聖戦のロケット集中砲火とイスラエル軍の空爆による報復の応酬は続き、テルアビブでもサイレンが鳴り響き、住民は防空シェルターに避難した。命中率90%を誇るイスラエルのミサイル防空システム「アイアンドーム」が迎撃できなかったロケット弾が、テルアビブ近郊や南部地域などの住宅や車に直撃し犠牲者も出た。

 ハマスが、ラマダン明けの祝祭が始まる13日に合わせたかのように、ロシア外務省を介し停戦の提案をしたが、イスラエルは拒否。イスラエル軍は、ガザ地区の境界地帯に地上部隊を増派し、ガザ地区への砲撃を開始した。

 イスラエル軍は交戦が始まって以来、ガザ地区で1180カ所以上を空爆し、地下トンネル網やハマスが軍事施設として使用していたとされるAP通信などが入居する高層ビルなど多くを破壊した。イスラエル軍は空爆前に、民間人の犠牲者を最小限にするため、住民らに建物から退去するよう警告している。

 一方、イスラエル国内では、人口の約2割を占めるアラブ系住民とユダヤ人が共に暮らす都市へも衝突が拡大した。テルアビブ近郊の都市ロッドでは、アラブ人らが警察に投石し、車両に火を放つなど暴動が発生した。ユダヤ教の礼拝所シナゴーグや商店なども放火され、アラブ人とユダヤ人双方が激しい暴行を受ける被害が出た。ネタニヤフ首相は11日夜、ロッド市に非常事態宣言を出した。治安要員として国境警備隊約1000人が動員され、暴徒400人以上が逮捕された。

 ヨルダン川西岸地区の各地でも、イスラエルに抗議するデモ隊とイスラエル治安部隊の衝突で、パレスチナ人10人が死亡した。

 ガザ地区ではこれまでに190人以上が死亡。イスラエルでは10人が死亡しており、双方の死者は合わせて200人を超えた。イスラエル軍は、ガザ地区から発射されたロケット弾のうち同地区内に落下したものが、パレスチナの民間人に犠牲者を出していると主張している。これまでにガザ地区からは、3150発以上のロケット弾が発射され、レバノンやシリアからも数発が発射されている。

 ネタニヤフ首相は「ハマスを罰し、イスラエルの平穏な状態を回復するため、必要な限り攻撃を継続する」としている。今後、ガザ地区への地上作戦が行われる可能性もあるが、イスラエル側にも多くの犠牲者が出ることは避けられない。いずれにせよ、イスラエルはハマスやイスラム聖戦の攻撃能力が無くなるまで軍事作戦を続けるとみられる。