イエメン内戦 米、サウジへの軍事支援を停止

フーシ派の攻撃が激化

 米国は、イエメンの武装組織フーシ派のテロ組織指定を解除、サウジへの軍事支援を停止した。一方、イエメンの首都と北部の大部分を支配しているフーシ派による暫定政府やサウジへの越境攻撃が激化、国連世界食糧計画(WFP)は「今世紀最悪の飢餓に直面することになる」と警告した。(エルサレム・森田貴裕)

国連は深刻な飢餓警告

 バイデン米大統領は2月4日、イエメン内戦におけるサウジ主導の軍事作戦への支援を停止すると発表した。さらに、トランプ前政権が決めたフーシ派の外国テロ組織指定を2月16日に解除。米国務省のプライス報道官は、声明で「今が紛争を終わらせる時だ、軍事的解決はない」と訴えた。

イエメン西部ホデイダで、火災で焼け落ちた避難民の収容施設=2月16日(AFP時事)

イエメン西部ホデイダで、火災で焼け落ちた避難民の収容施設=2月16日(AFP時事)

 バイデン政権は和平を支援する姿勢を示しているが、フーシ派はかえって勢いづき攻撃が激化している。サウジ南西部アブハの空港で2月10日、無人機(ドローン)による攻撃で、民間旅客機に火災が起きた。27日、28日には、首都リヤド上空で弾道ミサイル1発が迎撃されたほか、南部の複数の地域でドローンが多数飛来し破壊された。フーシ派は声明で「侵略が続く限り、作戦を拡大する」と述べ、攻撃を認めた。サウジは「民間人への攻撃を強めている」とフーシ派を非難した。

 サウジへの攻撃を受け、米財務省は3月2日、イランからドローンなどの武器を調達し、サウジへの攻撃や、イエメン暫定政府軍の拠点マーリブへの地上攻撃を激化させたとして、フーシ派の幹部2人を制裁対象に指定した。

 マーリブでは6日、暫定政府軍とフーシ派との間で激しい戦闘があり、双方の兵士や戦闘員が多数死傷した。フーシ派は2月から、産油地帯にあるマーリブの奪取を狙い激しい戦闘を展開していた。マーリブが陥落すれば暫定政府にとって大打撃となり、周辺の砂漠でキャンプ生活をする避難民数十万人を含む民間人にとっても大惨事となる恐れがある。

 フーシ派は7日、サウジ東部ラスタヌラ港にある国営石油会社サウジアラムコの石油施設や、サウジの都市にある軍事施設を狙い、ドローン14機と弾道ミサイル8発を発射した。サウジは報復として、フーシ派が支配する首都サヌアを空爆した。

 仏、独、伊、英、米は共同声明で、フーシ派によるマーリブへの攻撃とサウジへの攻撃の拡大を非難し、「マーリブへの攻撃は、人道的危機を悪化させている」と述べた。

 イスラエル紙ハーレツによると、国際協調を掲げるバイデン政権のレンダーキング・イエメン担当特使は2月26日に、オマーンの首都マスカットでフーシ派の交渉担当アブドゥル・サラム報道官と会談した。マーリブへの攻撃を停止するよう要請し、イエメン内戦に軍事介入するサウジと停戦に関する積極的対話を促したという。

 一方のフーシ派は、「停戦に関する米国の提案は、国連とサウジの思惑にすぎない」とはねつけた。

 サウジは、国境沿いのイエメン領内に緩衝地帯を設置することを望んでおり、フーシ派は、紅海に面したホデイダ港や首都サヌアのサヌア空港の封鎖解除を望んでいる。

 国連によると、中東の最貧国イエメンで約6年間続いている内戦で、人口の半数以上が生活困難な状況にあるという。WFPのビーズリー事務局長は10日、「イエメンでは1600万人以上が深刻な食糧不足に陥っており、そのうち500万人は飢餓の危機に直面している」と述べ、「早急に措置を取らなければ、イエメンは今世紀最悪の飢餓に直面することになる」と警告する。