バイデン米政権、中東で初の軍事攻撃
トランプ前政権が離脱したイラン核合意復帰をめぐり、バイデン米政権とイランの意見が折り合わず対立が続く中、バイデン政権は2月、シリア東部でイランが支援する民兵組織に対し初めての軍事攻撃を行った。イラクに駐留する米軍主体の有志連合軍基地への攻撃に対抗したものだという。イランは、米政権による親イラン民兵組織を標的とした空爆を非難した。(エルサレム・森田貴裕)
イランは非公式協議を拒否
抜き打ち査察の受け入れ停止
シリア東部デリゾール県のイラクとの国境地帯で25日、米軍はイラクの親イラン民兵組織「カタイブ・ヒズボラ」など多くのイスラム教シーア派武装組織が利用していたとされる複数の施設を空爆し破壊した。英国に拠点を置く「シリア人権監視団(SOHR)」によると、米軍による空爆で、親イランの民兵22人が死亡し、イラクからシリアへ武器を運んでいたトラック3台が破壊されたという。
米国防総省のカービー報道官は声明で、「バイデン大統領は米国と有志連合の人員を守るために行動する。同時に、シリア東部とイラクでの緊張状態を悪化させないよう慎重に行動した」と述べた。
マイケル・マコール米共和党下院議員は、今回の空爆について、「相応の軍事的対応であり、必要な抑止力である。イランやその代理武装勢力、世界中の敵対勢力へ向け、米国に対する攻撃は容認されないという明確なメッセージを送った」と述べた。
米シンクタンク・ブルッキングス研究所のイラン専門家、スザンヌ・マロニー氏は、「空爆は、バイデン政権がイランが支援する民兵組織に対抗しつつ、核合意についてイランと交渉できる可能性を示した」と指摘した。
シリアに隣接するイラク北部クルド自治区の都市アルビルでは2月15日、ロケット弾約14発が発射され、うち3発が米軍主導の有志連合軍が駐留する基地の近くに着弾し、民間の請負業者1人が死亡、米軍兵士1人を含む6人が負傷した。22日には、在イラク米大使館など各国の在外公館が集まる首都バグダッドの旧米軍管轄区域、通称「グリーンゾーン」にも攻撃があった。
イラク当局者らによると、しばしば発生する駐留米軍への攻撃はカタイブ・ヒズボラ傘下にある無名の過激派グループによって行われているという。しかし、カタイブ・ヒズボラは、駐留米軍施設へのロケット弾攻撃について関与を否定している。
バイデン政権は、イランの核問題などで協議に前向きな姿勢を示しているが、一方のイランは制裁解除が先決だとして反発を続けている。
バイデン政権は18日、トランプ前政権が2018年に離脱した核合意復帰に向けイランと対話する用意があると表明した。欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は2月、15年の核合意当事国の、米、英、仏、独、露、中の主要6カ国と核開発を進めるイランによる非公式協議を提案し、イラン側は参加の可否を検討する考えを示していた。
しかし、イランは28日、核合意主要国との非公式協議に参加しない意向を明らかにした。イラン外務省報道官は「最近の米国や欧州の行動を踏まえると、今はEUが提案した非公式協議を開く適当な時期ではないと考える」と述べた。また、「米国が一方的な制裁を解除することが前進する道だ」と強調した。
ハメネイ師は22日、核合意の規定に違反して進めているウラン濃縮活動について「必要であれば濃縮度を60%に高めることも可能だ」と主張。イランは23日、米国が制裁を解除しないとして国際原子力機関(IAEA)による未申告施設への抜き打ち査察の受け入れを停止した。
核合意はウラン濃縮を3・67%までに制限しているが、IAEAによると、イランは濃縮度20%のウランを17・6㌔貯蔵、核兵器製造にさらに近づいた。