ネタニヤフ・イスラエル首相がサウジ訪問 米、関係正常化を期待

 イスラエルのネタニヤフ首相が11月22日、サウジアラビアを秘密裏に訪問し、ムハンマド皇太子と会談したことが明らかとなった。サウジはイランに対抗するためのトランプ米政権の外交政策の要である。対イラン包囲網構築を目指すトランプ米大統領は、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)やバーレーンなどの国交正常化に続き、「サウジもすぐに加わるに違いない」として、イスラエルとの関係正常化に乗り出すことを期待している。イスラエルは、シリア領内に展開するイランの軍事的影響力拡大を阻止する構えだ。(エルサレム・森田貴裕)

イラン包囲網構築に前進
サウジはパレスチナ国家樹立を条件に

 イスラエルのメディアは23日、当局者の話として、ネタニヤフ首相がプライベートジェット機でサウジ北西部ネオムを訪れ、ポンペオ米国務長官を交えて、ムハンマド皇太子と3者会談を行ったと報じた。UAEなどとの国交正常化で重要な役割を担った対外情報機関モサドのコーヘン長官も同行したという。

11月19日、エルサレムでポンペオ米国務長官(左)との会談後、共同声明を発表するイスラエルのネタニヤフ首相(UPI)

11月19日、エルサレムでポンペオ米国務長官(左)との会談後、共同声明を発表するイスラエルのネタニヤフ首相(UPI)

 イスラエルのギャラント教育相は23日、軍ラジオで「会談が行われ、公開されたという事実は、たとえそれが半ば公式であったとしても、非常に重要な意味を持つ」と述べ、会談を認めた。

 ネタニヤフ首相は、会談についての詳細は語らず、「言えることは、イスラエルを強くし、平和の輪を広げるための努力を惜しまなかったということだけだ。今後もこの輪が広がることを願っている」と語った。

 一方、サウジのファイサル外相は、ツイッターで「会談には、米国とサウジの関係者だけが出席した」と述べ、3者会談が行われたこと自体を否定した。

 ファイサル氏は22日、「サウジはイスラエルとの国交正常化を長い間支持してきたが、その前に重要なことが一つなければならない。それはイスラエルとパレスチナの恒久的かつ完全な和平協定である」と述べた。サウジはパレスチナ国家樹立が先決との立場を崩していない。

 2002年にサウジが主導したアラブ和平案では、国交正常化はイスラエルが1967年の第3次中東戦争(6日戦争)で占領したパレスチナ領土から撤退し、パレスチナ国家を承認することなどを条件としている。

 トランプ米政権は、敵対するイランの包囲網構築のため、長年対立してきたイスラエルとアラブ諸国の関係改善を進めてきた。トランプ米政権の外交努力により、イスラエルは今年、米仲介でアラブ首長国連邦(UAE)、バーレーンと国交を樹立し、スーダンとも関係正常化を目指すことで合意した。イスラエルとの関係正常化に向かうアラブ諸国が多ければ、いずれはサウジも関係正常化に乗り出し、イラン包囲網に加わる可能性は高まる。

 ネタニヤフ氏は22日の演説で、次期米政権に言及しながら、トランプ米政権が離脱した「イランとの核合意に戻ることはできない」と警告。イランが核兵器開発を行わないよう国際社会は妥協のない政策を維持すべきだと主張した。

 米国のイラン核合意復帰を公約とするバイデン前副大統領が1月20日に米大統領に就任した場合、米国が核合意に復帰しトランプ米政権により再開された経済制裁を緩和する可能性があり、イランの核兵器開発が早まる恐れがある。

 また、ネタニヤフ氏は「われわれの政策は一貫しており、シリア領内におけるイランの軍事的影響力拡大や、イランの代理武装組織のイスラエルに対する敵対行動は許さない」と警告した。

 シリアでは11月も、イスラエル軍所属とみられる戦闘機による複数の空爆で、イラン革命防衛隊(IRGC)の軍事基地やレバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラの武器庫などが破壊された。

 2011年のシリア内戦開始以来、イランはシリア政府の要請によりIRGCの軍事顧問や戦闘員を派遣するなど軍事的支援や経済的支援を行っている。イスラエルは、敵対するイランを脅威と見なし、シリア領内に展開するIRGCの精鋭部隊であるコッズ部隊、イランが支援する民兵組織やヒズボラなどの軍事関連施設を標的に空爆を行っており、緊張が続いている。