イスラエル、UAEと国交正常化 イラン包囲網でアラブ諸国と連携
アラブ首長国連邦(UAE)と国交正常化で合意したイスラエルのネタニヤフ首相は16日、米FOXニュースのインタビューで「他のアラブ諸国の指導者たちとも話をしている」と述べ、国交正常化の動きがペルシャ湾岸諸国だけでなく、中東のアラブ諸国にも拡大する可能性を示した。仲介役の米国は、敵対するイランへの包囲網を強化したい考えだ。
(エルサレム・森田貴裕)
軍事・技術力で平和目指す
サウジは「アラブ和平案」維持
イランのロウハニ大統領は15日のテレビ演説で、対立するイスラエルと合意したUAEは「重大な間違いを犯した」と批判した。イランは20日に新型の弾道ミサイルと巡航ミサイルを公開するなど、包囲網に対抗する姿勢を見せた。イランによるミサイル開発は、中東、そして世界全体にとって潜在的脅威となっている。
パレスチナ自治政府のアッバス議長は18日、ヨルダン川西岸地区ラマラでの会合で、合意は「パレスチナの大義に対する裏切り行為だ」と述べ、UAEを強く非難した。
ネタニヤフ首相は16日の演説で、「強さによる平和という従来と異なる原則が、UAEとの国交正常化をもたらした。従来の領土からの撤退や譲歩で平和を実現するという考え方は捨て、軍事力と技術力により国家の影響力を高めることで平和を勝ち取るという別の信念に取って代わられた」と語り、「中東では、強者は生き残り、平和は強者によって構築される」と強調した。一時凍結となったヨルダン川西岸地区の一部併合について、「断念していない」と改めて明言。西岸地区の30%の併合計画に変更はなく、「米国の和平案に基づいて交渉を続ける」と述べた。
イスラエルのコーヘン情報相は16日、イスラエル軍ラジオで「UAEに続き、ペルシャ湾岸諸国のバーレーン、オマーンに加えて、アフリカのアラブ・イスラム諸国のモロッコ、スーダンとも国交を結べる可能性が高い」と語った。バーレーンとオマーンは、今回の正常化合意への支持を表明している。
沈黙を続けていたサウジアラビアのファイサル外相は19日、訪問先のドイツで、「イスラエルの一方的な併合政策と入植地建設は違法だ」と主張。従来の「アラブ和平案」の立場を維持すると強調した。
「アラブ和平案」は2002年、湾岸アラブ諸国の盟主的存在であるサウジが発表した和平案で、イスラエルによる1967年の第3次中東戦争(6日戦争)で占領したパレスチナの土地からの完全撤退と引き換えに、アラブ諸国がイスラエルとの国交を正常化させるというものだ。先に国交を樹立したエジプト、ヨルダンを除くアラブ諸国はこの和平案に基づき、イスラエルに対しヨルダン川西岸にあるユダヤ人入植地の撤去などを求めてきた。
トランプ米大統領は19日、米国は最新鋭ステルス戦闘機F35をUAEに供与することを検討していると語った。UAEは6年前から、F35の購入に意欲を示していたという。F35の販売プロセスには6~8年の期間と、米議会の承認が必要だ。しかし、米議会は2015年から続くイエメン内戦で多数の民間人が犠牲になっていることから、UAEやサウジへの武器供与に反対しているという。
中東で唯一F35を実戦配備しているイスラエルは、アラブ諸国にF35が渡れば、軍事的優位性が保てなくなると懸念を募らせ、UAEを含むペルシャ湾岸諸国への最新鋭武器の供与に強く反対している。
イスラエルのメディアで、合意の一環として数十億㌦規模の武器売却に関する秘密条項の存在が報じられたが、ネタニヤフ首相は、声明で「UAEへの最新鋭武器の売却は、米国がイスラエルに中東地域における軍事的優位性を保証していることから、合意には含まれていない」と主張し、これを断固として否定した。米国も合意とは無関係だと述べた。
ポンペオ米国務長官は24日から28日まで、イスラエルやUAEなどの中東諸国を訪問する。クシュナー米大統領上級顧問もサウジなどを訪問する予定とされ、イラン包囲網の構築に向けた外交努力をさらに進める構えだ。
イスラエルとアラブ諸国の連携によりイランへの包囲網を強化できれば、中東全体の軍事バランスが保たれ、新たな形の平和が築かれる可能性がある。

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