ネタニヤフ大連立新政権発足 ユダヤ人入植地併合に意欲
新型コロナウイルス危機に対応するため、与野党大連立政権を樹立したイスラエルのネタニヤフ首相は、選挙公約でもあるヨルダン川西岸に建設されたユダヤ人入植地の併合に向けた動きを進めている。
一方パレスチナ自治政府のアッバス議長は、占領地の違法な併合だとして反発、イスラエルと米国との安全保障協力を停止した。中東和平プロセスの危機的状況は今も続いている。
(エルサレム・森田貴裕)
パレスチナ 安保協力関係を放棄
西岸地区で暴動拡大の恐れ
イスラエルで5月17日、与党の右派「リクード」のネタニヤフ首相が率いる新政権が発足した。この1年余りで3度の総選挙を行うなど政治の混迷が続いていたが、コロナ禍に対応するための緊急統一政府と位置付けられ、政敵である野党の中道「青と白」のガンツ元参謀総長との連立政権樹立で合意に至った。さらにネタニヤフ氏を支持する右派・宗教勢力、中道左派「労働党」なども加わる大連立政権となった。政権期間を3年間とし、ネタニヤフ氏が首相を続投し、1年半後、ガンツ氏に交代するという。
ネタニヤフ氏は、政権発足に先立つ国会での演説で、「ヨルダン川西岸のユダヤ人入植地に最終的にイスラエルの法律を適用する時が来た」と述べ、併合への強い意欲を示した。連立合意文書によると、ユダヤ人入植地をイスラエルに併合する法案を7月1日から議会に提出することが可能となる。
トランプ大統領がネタニヤフ首相を招き今年1月28日に、米首都ワシントンのホワイトハウスで公表した「世紀のディール(取引)」と称してきた中東和平案は、イスラエル寄りの内容だ。占領地に建設されたユダヤ人入植地をイスラエルの領土と認定し、さらにヨルダンと国境を接する要衝の「ヨルダン渓谷」に対する主権をイスラエルに認めるとしている。国際社会はこれまでも、占領地の自国領土への編入は国際法違反であるとして、イスラエルに対しヨルダン川西岸への入植停止を求めている。しかし、トランプ米政権は昨年11月に、イスラエルによるヨルダン川西岸での入植活動を「国際法に違反していない」として事実上容認した。
汚職問題で収賄罪などに問われ5月24日に初公判を迎え、首相在任中に刑事裁判にかけられるイスラエル初の首相となったネタニヤフ氏だが、ユダヤ人入植地とヨルダン渓谷を主権下に置く方針で、7月に内閣で議論を進める考えを示している。
アッバス議長は5月19日、イスラエル政府が計画するユダヤ人入植地の併合に対し、自治政府幹部らと協議し、イスラエルおよび米国との間で交わされた安全保障問題を含む協定およびすべての合意に伴う義務を放棄することを表明した。過去にも同様の声明を発表しているアッバス氏は、東エルサレムを首都とするパレスチナ国家樹立を想定した2国家解決を強調、プロセスは米国だけでなく国際的な仲介役と共に進められる必要があると述べている。報道によると、自治政府がイスラエルとの協力関係を断ち切った一方で、大規模な混乱を防ぎ、イスラエルへのテロ攻撃や大衆蜂起を許可しないとイスラエル側に伝えたという。
1993年9月13日のオスロ合意から始まったイスラエルと自治政府間の協力関係は、10年以上にわたり多くのテロ攻撃を阻止し、西岸地域の治安維持に重要な役割を担ってきた。協力関係の必要性を重視するイスラエル軍や情報機関は、自治政府から過激派の情報が入らなくなれば、治安維持に重大な支障が出ると懸念する。
イスラエル軍は、政府が西岸地域の一部を一方的に併合するという和平案に従った場合、自治政府の治安協力は崩壊し、西岸地域でユダヤ人を狙ったテロ攻撃や暴動拡大へと発展する可能性が生じると警告する。西岸地域では最近、イスラエル軍に対する暴動が増加しており、兵士1人死亡、数人が負傷した。コハビ参謀総長は、司令官たちに警告を発し、西岸地域に数千の軍隊配備を計画、準備を始めたという。