新型コロナが中東でも急拡散、爆発的な感染の恐れ

 中東では、新型コロナウイルスの感染がイランを先頭に、トルコ、イラク、エジプトなどで急拡大、サウジアラビアやカタールなどの湾岸諸国でも感染者が急増し、爆発的な感染につながりかねないと懸念されている。内戦下のシリアやイエメンなどに及んだ場合、予測不能で壊滅的な被害が出る恐れがある。(カイロ・鈴木眞吉)

体制の隠蔽や宗教が一因
内戦下のシリア 壊滅的被害も

 飛び抜けて死者数および感染者数が多いのはイスラム教シーア派国家イランで、感染者数は2万人を超え、死者数は約2000人。同国保健省の報道官は19日、国内では10分間に1人が死亡し、1時間に50人が感染しているとツイートした。死者数は、イタリアと中国に次ぐ世界3位で、初期対応のまずさが指摘されている。

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10日、テヘランで、バスの車内を消毒する自治体職員(AFP時事)

 イランが初めて感染を確認したのは2月19日。急拡大したのは2月下旬からだが、原因として識者が指摘している点の第一は、感染が最初に確認されたシーア派聖地コムでの衛生上の問題。聖人を祭る廟(びょう)に巡礼者が唇や手を触れるため感染が広がったとされる。中国の武漢を訪れたイラン人か、コムを巡礼か観光、研究で訪れた中国人がウイルスを持ち込んだ可能性がある。

 第二は、2月11日に革命記念日が、同月21日には国会選挙があったことから、動員や投票率を引き上げるため、体制側が実態の隠蔽(いんぺい)に動いた可能性がある。

 第三は、中国との関係が緊密であったために、各層における人的交流が活発で、イランで働く多くの中国人労働者が中国の春節で帰郷してイランに戻る際、ウイルスを持ち込んだとみられている。

 第四は、イスラム教の強い信仰が科学的判断を押しのける前近代的な価値観による。

 コムの宗教指導者は「新型コロナウイルスは宗教心で克服せよ。礼拝に来ない理由にはならない」と呼び掛け、インターネット交流サイトには「礼拝できないぐらいなら、感染して死んでしまった方がましだ」などの投稿もある。エジプトの地方紙は、「疫病を取り除くためには、神に近づくべきだ」という市民の声を伝えた。

 イラクのシーア派教徒は、戒厳令を無視して、聖職者の記念日を祝おうと大集会を強行。最近、新型コロナウイルス感染拡大の中で死亡したイラン革命防衛隊の指揮官の葬儀や、イラクのシーア派指導者、モクタダ・サドル師に従うシーア派信徒たちの大集会も、ほとんどがマスクの着用なしに行われた。

 アインシュタインが残した名言「科学なき宗教は盲目であり、宗教なき科学は不具である」との言葉が脳裏をよぎる。隠蔽という国家指導者による利己的判断と宗教指導者の狂信的な信仰が問われている。

 もう一つ憂慮されるのは、医療体制が貧弱な内戦下の国家に感染が拡大することだ。シリアでは3月22日、初の感染者が確認された。

 核脅威イニシアチブ(NTI)、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターによる世界で最もパンデミック(世界的流行)に備えができていない国のワースト24の中に、イエメン(6位)、シリア(8位)、アルジェリア(22位)が入っている。

 24日の時点で、シリアは感染者1人、アルジェリアは死者9人で、感染者201人とそれほど多くはない。イエメンでは感染者は確認されていない。シリア、イエメン両国とも、内戦下にあり、一度感染が始まれば、急速に拡大する可能性がある。

 中東諸国のほとんどが、モスクや喫茶店、レストランなどを閉鎖し、夜間外出禁止令を発動、航空機の発着も停止するなど、必死の対策を打ち出した。拡大か収束かの最大のヤマ場を前に、国民には科学的論拠に基づいた行動が求められている。