米中の覇権争いに霞む「5G強国」


韓国紙セゲイルボ

火事場見物を決め込む韓国政府

 米中貿易戦争が燎原の火のように広がりファーウェイに燃え移った。昨年、4192億㌦に達した米国の対中貿易赤字はもはや周辺話題だ。

トランプ米大統領と文在寅韓国大統領

ホワイトハウスの柱廊を歩くトランプ米大統領と文在寅韓国大統領(右)2019年4月11日、米ワシントンDC(UPI)

 「ファーウェイ封鎖」はどこまで広がるだろうか。半導体設計企業である米AMDと英ARM、アンドロイド基本ソフト(OS)を開発したグーグル、プログラム駆動半導体と通信チップを供給するインテルとクアルコム…。数多くの大手企業はファーウェイとの取引を切った。日英豪も反ファーウェイ戦線に加担した。

 トランプ米大統領とポンペオ国務長官は、「ファーウェイの5世代(5G)装備を使うな」「使えば安保利益を危険に晒(さら)し、敏感な情報をこれ以上共有できない」と行く先々で叫ぶ。ハリス駐韓米大使は韓国のIT企業を集めて、「5Gネットワーク上のサイバー保安は同盟国通信を保護する核心要素だ」と強調する。ファーウェイと取引すれば同盟を持続するのが難しいという圧迫だ。

 米国はなぜこのようにファーウェイに拘るのだろうか。理由は簡単だ。5Gを掌握する者が第4次産業革命の主導権を握るからだ。5G。それは汎用技術だが、第4次産業革命の土台となる。蒸気機関と電気が過去の産業革命を産んだのと同じだ。

 第4次産業革命は5Gに依存して成り立つ。全てのものは5Gネットワークの上に構築される。自動運転も遠隔医療も各種IoT(モノのインターネット)で発生する大量情報のAI(人工知能)分析も。5Gに基づかない技術革命は考えるのさえ難しい。

 世界移動通信事業者協会(GSMA)は「5Gの経済効果は2024年131億㌦、2034年5650億㌦に達する」と予測する。これだけ見ても5Gがどれくらい威力的なのかが分かる。

 5G覇権を失うことは経済覇権の終末を意味する。だから米中の衝突は単純な貿易紛争の次元を超えている。技術戦争はすでに後戻りできない状況なのだ。

 韓国を5G強国という。世界最初に5Gサービスを始めたKT。昨年10月から6カ月間、5G装備市場の占有率はサムスンが37%で世界1位だ。ファーウェイ28%、エリクソン27%だ。

 だが「鯨の争いで海老(えび)の背が裂ける」ことになった。中国国家改革委員会はサムスンとSKハイニックスを呼んで、「米国に協力すれば深刻な結果に直面するだろう」と脅した。「サード報復」のような経済報復が始まる可能性がある。一方で中国との取引を続ければ、米国の報復リストに載る。韓米同盟も深刻な打撃を受ける。進退両難だ。

 どう解決するか。政府が乗り出さなければならない。技術戦争は企業間の戦いでなく国家間の戦争だ。なのに大統領府は一度の対策会議も行わず、見解も示さない。「企業が処理せよ」と火事場見物だけで、無責任である。

 政府はただの徴税組織ではなく、国家利益を守護する主体だ。総体的な経済・安保危機が押し寄せているのに、政府は何をしているのか。

(姜浩遠論説委員、6月11日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

意味なかった「5G世界初」

 韓国は次世代通信技術5Gを世界で最初に実用化したと宣言した。だが、いつものことだが、実際の実用化には程遠い。「最初」や「一番」に強いこだわりを持つものの、土台がいつも不十分、その後のフォローや持続ができないのだ。

 たとえば、巨大な人口を収容できる高級マンション群を造りながら、アクセス道路が農道1本しかないようなものだ(実際、こういう話はよくあった)。せっかくの5Gだが、それを使える環境が整っていなかったり、生かすコンテンツがなかったりするのである。

 5Gをめぐる覇権争いは記事でも示している通り、米中の争いとなっている。「最初に」に実用化した韓国はどこにも登場しない。そして技術覇権争いとは関係ないところで、相変わらず米中という2頭のクジラの間に入ったエビの境遇で「進退両難」を嘆く。地政学的宿命と言えばそれまでだが、いいかげん、韓国は軸足をどちらに置くのかを明確にすべきだ。

 中国市場への依存度が高いのは韓国に限った話ではない。米国ですら巨大貿易赤字を出す程、中国市場に入れ込んでいる。日本も同じだ。だから経済的関係を理由にはできないのだ。

 文在寅政府が国家的諸懸案に明確な態度や方針を示さないことへの苛(いら)立ちがここにも表れている。

(岩崎 哲)