電磁パルス兵器に警戒を ジェームズ・ウールジー氏
元米中央情報局長官 ジェームズ・ウールジー氏
北朝鮮の核開発をどう見る。

ジェームズ・ウールジー氏 米オクラホマ州出身。カーター政権で海軍次官、レーガン政権で米ソ戦略兵器削減交渉代表、ブッシュ(父)政権で欧州通常戦力(CFE)条約交渉担当大使、クリントン政権で中央情報局(CIA)長官を歴任。
北朝鮮は核弾頭を搭載できる、より射程距離の長い弾頭ミサイル開発を続け、また米国や日本の標的を攻撃できる精度を高めようと取り組んでいる。だが、北朝鮮が進める核開発にはもう一つの道がある。残念ながら、これはもっと容易かもしれない。
もう一つの道とは、核弾頭を衛星の軌道に乗せて米国などの上空で爆発させ、電力網を麻痺(まひ)させることだ。これは電磁パルス(EMP)兵器と呼ばれる。
北朝鮮の核開発には二つのアプローチがあり、両方に特別な注意を払い、対処しなければならない。
EMP兵器の恐ろしさとは。
通信、食料、水道、医療などすべての社会インフラは電力に依存している。核兵器を地上で爆発させ、特定の標的を攻撃しなくても、甚大な被害をもたらすことができる。
開発が容易とはどういうことか。
EMP兵器は、大気圏内に再突入させて特定の標的を狙うわけではないため、精度を高める必要がない。
また、核爆発の規模、つまり、爆発が大きいか小さいかは関係がない。問題は、核爆発時に発生するガンマ線を通じて電磁波が生み出されることだ。
EMP兵器に必要な要素は二つある。地球周回低軌道に衛星を載せる能力と、宇宙で核兵器を爆発させる能力だ。どちらも極端に難しい能力ではない。大型衛星を打ち上げる必要はなく、小型の核弾頭を載せた小型衛星を打ち上げればいい。
北朝鮮は既にその能力を保有していると見るか。
北朝鮮がこの二つの能力を統合させたかどうか分からない。だが、そのやり方を知っていることは間違いない。なぜなら、ロシアが北朝鮮を支援してきた。
EMP兵器は日本にとっても脅威か。
米国であろうと日本であろうと韓国であろうと、どの国もEMP攻撃の対象になり得る。
地球周回低軌道の衛星は毎日、地球の大部分を通過する。地上の標的を攻撃する正確性が求められる弾道ミサイルと違い、EMP兵器はフレキシビリティーが極めて高い。
従来の弾道ミサイル防衛システムでは防げない。1回の核爆発で国全体のインフラが崩壊しないよう、電力網の強靭(きょうじん)性を高めることが賢明だ。
日韓米はEMP兵器対策で協力できるか。
できるし、やる必要がある。
トランプ米政権の北朝鮮政策をどう見る。
トランプ大統領はすべての選択肢がテーブルの上にあると述べている。その中には北朝鮮への先制攻撃も含まれることは間違いない。
対話も選択肢だが、北朝鮮はこれまであらゆる場面でうそをついてきた。全く不可能とは言わないが、金正恩朝鮮労働党委員長との対話から前向きな結果を得られたら驚きだ。
正恩氏を暗殺する「斬首作戦」はどうか。
それは極めて可能性の低い解決策だ。正恩氏個人が唯一の問題ではない。北朝鮮全体の体制が周辺国を破壊しようという方向を向いているように見える。
(聞き手=編集委員・早川俊行)
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