台湾の蔡英文政権発足から1年、日本との関係を重視
「新南向政策」が始動
台湾の蔡英文総統は、きょうで就任から1年を迎える。この間、東南アジアや南アジアなど18カ国との関係強化を図る「新南向政策」では、経済、文化、教育など幅広い分野で交流を促進。国内においてはモノのインターネット(IoT)などの「未来産業」の育成に向けての計画も打ち出した。日本との関係も重視し、経済連携協定(EPA)締結に意欲を示している。
■日台が海洋協力で対話
日本側の対台湾窓口機関「交流協会」が1月に「日本台湾交流協会」に名称変更した。外交部は「台日関係の発展を証明している」とこれを歓迎。5月17日に、対日窓口機関の「亜東関係協会」も「台湾日本関係協会」に名称変更した。
日本との関係をめぐっては、昨年4月に海上保安庁が日本最南端の沖ノ鳥島沖で台湾漁船を拿捕(だほ)したことをきっかけに、当時の馬英九政権が「沖ノ鳥島は岩」と反発。一時関係がぎくしゃくしたが、蔡政権は発足直後にこれを軌道修正し、対話によって解決する方針を示した。
昨年10月に開かれた「台日海洋協力対話」の枠組みの下、日本台湾交流協会と亜東関係協会は4月9日、「漁業協力ワーキンググループ会議」を開催。沖ノ鳥周辺海域の操業問題のほか、ウナギの資源管理、小型マグロはえ縄漁船の管理などについて、「友好関係維持と相互信頼増進」の原則の下、引き続き議論を進めていくことで合意した。
日本とのEPA締結への意欲を示している蔡英文総統は昨年11月29日、日台貿易経済会議へ出席するため台湾を訪問した交流協会(当時)の大橋光夫会長らと会見し、同会議を通して「EPA調印へのコンセンサスが醸成され、さらに多くの産業およびビジネス連携の機会へと発展できるようにしたい」と期待を述べた。
■「新南向政策」の推進
新南向政策は、前政権で強まった過度な対中貿易依存の是正が主な目的だ。
蔡英文総統は、同政策について「中央政府レベルの政策であるばかりでなく、地方自治体が都市外交などの方式で加わり、地方の社会と産業の参与を促していくことを積極的に奨励すべき」と述べ、国を挙げて取り組む姿勢を見せている。これまでのように単に生産工場の拠点としてではなく、対象国との経済、文化、教育、医療など幅広い分野における結び付きを強めることを目指している。
この方針の下、東南アジア諸国から台湾を訪れる団体旅行客に対してビザの申請手続きを簡素化したり、タイやインドネシアから大学学長を招き、教育分野での交流促進に向けた意見交換を行っている。
■国内産業力の強化
台湾は、電子機器の受託生産によって牽引(けんいん)されてきた従来の経済モデルに変わり、自力でイノベーション(技術革新)を生み出すような、新たなモデルを模索している。
台湾北部の桃園市を拠点とした「アジア・シリコンバレー計画」では、海外から、IoTやビッグデータ、人工知能に関わる人材や投資を呼び込むことを狙う。昨年9月に発表された推進計画では、1年以内のバーチャル学院設置、グローバル企業2社からの投資誘致などを目標に設定。2025年までにIoTの世界シェアを5%に引き上げることを目指す。
国防においても、航空機や艦艇の国産化を重要な政策として位置付けている。蔡総統は3月21日、地元の造船業者との国産潜水艦の建造に関する調印式に臨み、「水面下での戦力は台湾が最も強化しなければならない部分だ」と強調した。8年以内の進水、10年以内の就役を目指す。また2月7日には、空軍の練習機の自主開発計画を発表。2026年までに、66機を製造するとした。
このほか、「グリーンエネルギーの推進」も重視。昨年10月末に苗栗県で台湾初の洋上風力発電機2基が完成しているが、政府は今後、太陽光発電と風力発電を主力に、再生可能エネルギーを増やし、2025年の発電量比率を全体の20%とすることを目指している。