敵基地攻撃能力急げ、半島有事に不可欠な在沖米軍
元米国務省日本部長 ケビン・メア氏(下)
対北朝鮮で日米の連携が一段と重要になる。
北朝鮮は日米間に亀裂をつくろうと狙っている。例えば、北朝鮮が日本に対し、核弾頭を搭載していないミサイルを被害が少ない場所を狙って着弾させるシナリオが考えられる。日本国民は当然、米国が反撃すると思う。だが、反撃すれば、北朝鮮は韓国を攻撃する可能性が高いため、慎重にならざるを得ない。米国が反撃しなければ、日本の一般国民は「日米同盟は何のためにあるのか」と疑問に思うだろう。
日本は独自の反撃能力、敵基地攻撃能力を一刻も早く保有した方がいい。もちろん、情報収集・警戒監視・偵察(ISR)能力が必要であり、日本独自では反撃できず、日米共同で対処することになる。それでも、反撃の選択肢が増えることは、日米同盟の運用上、そして政治的にも極めて有益だ。
自民党が敵基地攻撃能力の保有を提言しているが、1~2年時間をかけて議論する余裕はない。
北朝鮮の脅威に直面しながらも、日本では敵基地攻撃能力の保有についてコンセンサスができていない。
コンセンサスをつくる時間がない。首相が指導力を発揮すべきだ。どの兵器が最も効果的で、最も早く導入できるか、という視点で検討すべきだ。
選択肢はいろいろあるが、私の判断では、空対地長距離巡航ミサイル「JASSM-ER」が望ましい。戦闘機から発射でき、ステルス性も備える。トマホークは艦船から発射できる巡航ミサイルだ。既に存在する兵器であり、早く導入できる。
対北朝鮮で日本が取り組むべき優先課題は敵基地攻撃能力の保有か。
その前にミサイル防衛能力の向上だ。現在、陸上配備型イージスシステム「イージス・アショア」か、最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の導入が検討されている。敵基地攻撃能力の保有も同時並行で決断しなければならない。
日本も核保有を検討すべきか。
日本が核保有しても何の意味もない。そもそも使えない。北朝鮮に核兵器を使用したら、風に乗って放射能が日本にやって来る。
核保有には膨大な費用が掛かる。ISR能力も持たなければならない。日本は核を持つ前に整備しなければならないことがたくさんある。核保有を主張する気持ちはよく分かるが、冷静に何が一番効果的かを判断しなければならない。それは核ではない。
韓半島有事における沖縄の米軍基地の重要性は。
戦略的に不可欠だ。空軍嘉手納基地は非常に大きく、戦略的な基地だ。沖縄から平壌までの距離は、沖縄から東京より近い。沖縄の米軍基地は、対中国のみならず、韓半島有事でも不可欠な役割を果たす。また、太平洋の西側では唯一、機動力を持った米軍の地上部隊である海兵隊も沖縄に駐留している。
韓半島有事では、沖縄と本土の米軍基地だけでなく、日本の空港や港、医療施設、輸送施設、通信施設など民間施設も使わなければならない。私が韓国の知人に言うのは、米軍は日本の協力がなければ、韓国を防衛できないということだ。だからこそ、日韓関係を改善しなければならない。
移設反対の沖縄知事は無責任
沖縄の米軍基地の重要性は、沖縄県民の間で十分理解されていない。
沖縄には軍がいなくなれば平和になるという人がいるが、平和を唱えるだけで平和になるわけがない。沖縄県民は中国の脅威が目の前にあることを念頭に置くべきだ。尖閣諸島は沖縄県石垣市の管轄区域内であり、米軍基地は必要ないというのはおかしい。
中国は頻繁に尖閣諸島周辺に武装した公船を送り込んでいる。もともとは海軍の船をペンキで白く塗り、それをコーストガードだと言っている。それは軍事的行動だ。中国の動きは今後もっと激しくなる。
日米安全保障条約は日本の施政下にある領域に適用されるが、中国は尖閣諸島が日本の施政下にない現状をつくり出そうとしている。そうした中国の意図を沖縄県民は理解すべきだ。
沖縄県の翁長雄志知事は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対している。
県民の大きな負担軽減になる計画を妨害しており、県民に対して無責任だ。新基地反対と言うが、新基地を造る計画はない。既存の基地内に施設を移設しようとしているだけだ。
普天間飛行場の滑走路は2800㍍だが、辺野古に移設すると1800㍍になり、戦闘機などが利用できなくなる。運用面を考えると、今の普天間飛行場の方がいい。それでも日米両政府は県民の声に応えた。
普天間飛行場は特別危険ではないと私は何度も述べている。例えば、大阪・伊丹空港の方が周囲の人口密度は高いし、航空機が離発着する頻度も高い。だが、普天間飛行場周辺の住民が危険を感じていることを理解し、それを解決するために移設しようとしている。
普天間飛行場はそのままではなく、すべて返還される。翁長知事はなぜそれを妨害するのか。知事は移設阻止というが、実際は県民の負担軽減阻止でしかない。
憲法9条の改正論議をどう見る。
集団的自衛権を行使するために9条を改正する必要はない。敵基地攻撃能力の保有も現在の条文で可能だ。それでも、私は個人的に9条を改正した方がいいと思っている。それは子供の教育のためだ。
日本の子供たちは、学校で平和憲法があるから平和で、日本は軍事力を持っていないと教えられている。だが、日本には戦車も護衛艦も戦闘機もあり、矛盾している。それは教育的に良くない。
安倍晋三首相は9条1、2項はそのまま残し、3項で自衛隊の存在を明記する案を示した。専守防衛の政策は維持し、自衛隊を認めるだけだ。大した変化ではなく、反対する理由がない。衆参両院で3分の2以上、国民投票で過半数の賛成を得られると思う。
(聞き手=編集委員・早川俊行)






