北の宗教弾圧、許されない残忍な仕打ち


 米国務省は国際社会における信教の自由に関する年次報告書を発刊し、北朝鮮について「米国政府は多国間フォーラムや外交関係のある国々との二国間協議で深刻な憂慮を提起してきた」と指摘した。3代世襲の独裁体制下で人権無視の宗教弾圧が繰り返され、それが一向に改善されない。ゆゆしき事態だ。

「身体的に虐待した」

 報告書は北朝鮮で信教の自由が侵されている実例として「ほぼ全ての宗教活動と関連した人たちを処刑、拷問、逮捕し身体的に虐待した」ことを挙げた。

 また報告書は2019年末現在、キリスト教徒であるという理由で5万~7万人が収監中という非政府組織(NGO)の推計を紹介。「北朝鮮でキリスト教徒であることが発覚すれば政治犯として労働収容所に追放されるか、はなはだしくはその場で殺害される」というNGOの主張も盛り込んだ。

 惨たらしい人権侵害であり、宗教弾圧だ。こうした仕打ちは決して許されるものではない。

 報告書は、北朝鮮では憲法で信教の自由が保障されているが、それは国際社会の批判をかわすための対外向け宣伝であり、偽善的なものにすぎないことも指摘した。

 グテレス国連事務総長は昨年7月、北朝鮮の憲法は信教の自由を規定する一方で「宗教が外部勢力を引っ張り込んだり、国家・社会的秩序を害する口実に利用されたりしてはならない」という条項があり、これが表現の自由や思想・良心・宗教の自由、平和的な集会・結社の自由に対する権利を著しく制限する根拠に使われていると批判。今回、報告書にこの指摘が提示された。

 弾圧は北朝鮮を訪問する外国人も例外ではない。15年には布教活動を目的に訪朝した韓国系カナダ人が敵対行為を働いたとして拘束され、無期の労働教化刑を言い渡された後、約2年後に病気を理由に釈放された。

 米国は外国で宗教活動を理由に迫害された個人を擁護するため、1998年に「国際宗教の自由法」を制定した。これに基づき、2001年から北朝鮮を「特に懸念される国」に指定してきた。人権問題を重視するバイデン米政権では、この問題が一層厳しく指弾されるだろう。

 ただ、対北朝鮮政策の見直しを完了させたバイデン政権は、最大の懸案である北朝鮮非核化をめぐり対話を模索している。宗教弾圧の問題が非核化交渉の後回しにされたり、交渉進展に配慮して追及の手を緩めたりすることがあってはならない。

 韓国の脱北者団体が3月に発刊した本によれば、金正恩政権による厳しい取り締まりにもかかわらず、キリスト教の地下教会で活動している信者は最大50万人に達する。国際社会は、こうした人たちが信仰の灯を絶やさないためにも問題を看過してはならない。

文大統領の沈黙も問題

 人権派弁護士出身である韓国の文在寅大統領が、北朝鮮の宗教弾圧に沈黙し続けているのも問題だ。南北融和のため正恩氏の顔色をうかがっているのかもしれないが、同民族の人権が政治や外交の犠牲になっていいはずはない。