中国は韓国安保にどんな存在なのか
半島分断の原因、北核も傍観
米国と中国との対立が全方位に拡大する中、韓国の立ち位置が動揺している。「安米経中」(安保は米国、経済は中国)の立場で戦略的曖昧さを維持して国益を守ろうという試みは、もはや通じない雰囲気だ。今こそ明確で大胆な決断を下さなければならない時だ。
どのような基準と観点で判断するべきか。不変の最優先国益は国家安保だ。そうであるなら、韓国の安保にとって中国はどんな対象であり、どんな存在なのかをまず顧みる必要がある。
最初に、中国は分断と対決の原因を提供した張本人だ。1950年金日成(キムイルソン)の不法南侵に対する支援を約束し、実際に同年10月下旬、国軍が鴨緑江まで到達して統一を目前にしていた時、中国人民解放軍が進入してこれを妨害した。中国は韓国動乱を「抗米援朝」戦争としており、言葉では南北の平和統一云々しながら行動はその反対だ。
第2に、中国は北朝鮮の軍事同盟国だ。61年締結の「朝中友好協力相互援助条約」2条では「…締結国のうち一方が…侵略を受ける場合、戦争状態に変われば即時、軍事的援助を提供しなければならない」と、義務条項を明示している。すなわち、北朝鮮が戦争状態に突入すれば、中国は遅滞なく北朝鮮を助けるようになっている。これは韓米相互防衛条約が武力攻撃を受けている時「相互協議する」「各自の憲法上の手続により行動する」と規定していることと対比される。
第3に、中国は今日、北朝鮮の核武装過程で事実上の助力者、傍観者の役割をしてきた。もちろん2016年以降、国連安保理決議に同意してはいるが、北の非核化は全く進展していない。中国が北核解決法として主張した「双中断、双軌並行」(韓米連合練習と北核・ミサイル実験中断、核問題と平和体制問題の並行交渉)も、実は韓米同盟を弱体化させて、中国の影響力を拡大しようとの思惑と見られる。16年に在韓米軍と韓国安保のためにTHAAD(終末高高度防衛)ミサイル)を導入した時、明白な防衛兵器であるのに、無慈悲に韓国に向かい報復してきた事実がこれを立証している。
1992年の韓国と中国の国交正常化後、両国関係は経済分野をはじめ目覚ましく発展してきたが、安保・軍事分野は足踏み状態だ。中国の韓国防空識別区域(KADIZ)侵犯は1回や2回でなく全く反省もしていない。もちろん、中国と信頼を高め関係改善するための努力を継続しなければならないが、協力することは協力するものの、牽制しなければならないことははっきり牽制(けんせい)しなければならない。
さらに北核・ミサイルの脅威に事実上、人質と違わない韓国の安保のために、私たちがどのような決断を下すべきか、その答えは明確に出ている。今は、ためらう時ではない。
(文聖黙(ムンソンムク)韓国国家戦略研究院統一戦略センター長、4月30日付)
※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。
ポイント解説
時宜得た保守紙らしい企画
米中対立の中で、韓国政府は中間に立って態度を決めかねている。対中貿易依存度が高いこと、南北統一への中国の役割の大きさの他に、冊封体制や華夷秩序などの歴史的経緯から、中国の引力圏から心理的に抜け出せない面もある。しかし安全保障の観点に立てば韓国が取るべき態度は単純で明確だ。すなわち中国は「敵性国家」なのである。
米韓首脳会談を控えて、韓国は首脳としては2番目にバイデン大統領と会う。せっかくの機会だが、文在寅大統領の外交は形だけで中身のないことが多い。中国訪問の時もほったらかしにされ北京で「一人飯」を何度も食べた。首脳としては残念ながら軽んじられることが多いのだ。
今回、米側からは相当に強い要求が出てくると予想される。前もってある程度の答えは示しているのだろうが、取引のできる余地はほとんどない。文大統領の悲願である対北朝鮮制裁の緩和・解除などは、韓国がインド太平洋戦略、クアッド+、対中包囲網に全面的に参加するとでも言わない限り、バイデン政府からの協力を引き出せるものではない。ましてや、北朝鮮の“取れるだけ取る”式交渉術の手先と思われては、話も聞いてもらえないだろう。
文聖黙センター長の論旨は明快だ。中国が国家安保からすれば、韓国の利益にならない、むしろ不利益を与えてきた国であることを実例で述べている。いずれも歴史的事実である。それからすれば韓国が取るべき態度は明らかなのだが、それが難しい。左派政権が対中傾斜を止めるとは考えにくいからだ。
ともあれ米韓会談を控えて、対中態度を明確にせよと迫る論文は時宜を得たもので、保守紙らしい企画である。
(岩崎 哲)