ウイグル独立の動き激化 香港の予言研究家 莫天賜氏に聞く

紐解かれた中国予言書「推背図」

 中国には古来、七大予言書があり、中でも唐の時代、7世紀に書かれた李淳風・袁天網共著の「推背図(すいはいず)」は中国歴代王朝の支配者が読んだ際、あまりに的中率が高い予言書として、宋代の太祖は禁書にしてしまうほど門外不出の機密文書だった。その推背図が1914年に上海で発見され、以後、徐々に研究と解明が進められる中、研究歴30年の第一人者が日本メディアで初めて本紙に予言内容を紐解(ひもと)いてくれた。
(聞き手=レイモンド・チャン、写真も)

尖閣問題、戦争に発展せず/10年後に中台統一の動き急

異常気象は天の警告/地球の生命力そぐ環境破壊

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 ――中国の七大予言書の中で傑出した推背図の特徴と意図する内容は何か。

 中国には古来、予言書は数多くあり、的中率が高かった予言書は禁書となったり、著者を殺害するなど、焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)のような血なまぐさい歴史がある。推背図は全部で60項目の『象』に分かれ、各象に干支(えと)と易の卦(け)、予言内容を示す漢詩の『讖(しん)』と補足文の『頌(しょう)』、予言内容を示す絵図で構成されている。記述内容に抽象度が高く、正確な解釈は易学に精通し、各時代の歴史事象と讖と頌、絵図との連関性を深く洞察し、複雑なパズルを完成させるような見識眼が必要となる。この予言書自体、営利目的で書かれたものではなく、未来の民政のために記された。だから私自身も推背図を解説した著書類の印税はすべて中国の苦学している学生の奨学金に還元している。

 ――推背図の解説書は中国や香港、台湾で続々と出版され、日本でも出されているが、解釈が多種多様で的外れだったり、近未来の解釈が外れるケースが多い。ここ数年、ご本人が刊行された推背図の解説書が中国の近未来について明解に予想し、的中していることとの違いは何か。

 推背図の神髄を理解するには中国最古の部首別漢字字典『説文解字』、中国の大型総合辞書『辞海』を隅々まで読破し、精通する必要がある。推背図を形作る易の根本は三易(連山易、帰蔵易、周易)の三つだが、周易の基礎となった連山易や帰蔵易は現存せず、易の奥義が隠されている。推背図の解釈が人によって違うのは、字の真意や連山易、帰蔵易の核心を知らないからだ。天は解明の動機を質(ただ)す。推背図に表記されている1~60象には六十の干支と易の卦(64ある卦のうちの60)があり、特に60ある卦の内容は天が『あなたはどんな立場の人か』『どういう動機で解明しようとしているのか』を問いただし、営利目的や不純な動機の場合、肝心な部分で解釈が間違い、外れてしまう。自戒の意味を込め、私の場合は執筆動機を常に質し、近未来についての解釈が間違った時点で断筆することを誓って執筆している。

600 ――推背図が1914年に上海で発見され、1914年が推背図研究において極めて重要だとされる理由は何か。

 文芸批評家の金聖嘆(1610~1661)は推背図を最初に解説した人物。なぜ、1914年が重要かというと、発見された当時は、1914年以前が過去の歴史であり、それ以降は未来ということになる。当時、中国共産党すら誕生していない時期だった。しかし、その後の未来について、ことごとく当たっている。例えば、推背図の第40象には『一二三四 無土有主』と記され、毛沢東の主張するマルクス主義を基礎とする四大毛沢東思想と中国共産党の出現を予言している。自著では推背図の第40~48象を通して中国共産党が結党し、中華人民共和国が建国され、同国が今後、推背図の予言でどうなっていくかを解読し、明示した。

 ――2014年は韓半島で甲午農民戦争(東学党の乱)をきっかけに日清戦争が勃発した1894年から120年目で60年周期の干支から見ると同じ甲午(きのえうま)年。日中関係、日韓関係は厳しさを増しているが、推背図では2014年の中国をどう見通せるか。

 今年は中日間で戦争は勃発しないが、小さな衝突や摩擦はある。尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺で小さな紛争は起こるが、戦争に発展することはないと断言する。小さな摩擦、衝突はあるということだ。

 ――昨年、新疆ウイグル自治区でのウイグル族の動乱や自爆抗議が激化したが、中国内でのウイグル独立派の動きはどうなるか。

 第48象では『維(中国語でウイグル族を表す)』が出てくる。『維離(ウイグルが分離独立)』の表記から、これは中国が腐敗し、ウイグル族の反乱が激化することを意味している。中国の腐敗で卯(う)年(2011年)から午年(2014年)の期間にウイグル族が中国で反乱を顕在化させ、今年はさらに激化していくだろう。このことについては次著で詳しく執筆予定だ。

 ――1997年、中国に返還された香港は一国二制度をめぐり、普通選挙や民主化でデモが頻発している。今後の香港の行方や台湾の未来について推背図では中国に併呑(へいどん)されていくと解釈されるとしているが、いつごろ、どうなるか。

 今後の中台関係については2023~24年ごろ、台湾は中国に統一され、香港の一国二制度もトラブルが収まっていく。推背図の第43象では、香港が中国に返還されて30年間ぐらいは困難が伴うことを示している。台湾が中国に統合されるのが、2023~24年ごろなので、その3年後の2027年には香港問題も解決されるだろう。

 ――日本を抜いて世界第二の経済大国になった中国は、近未来、米国を抜いて世界一の経済大国になることを推背図でも予言・解釈できるとしているが、今後、中国経済や米国経済の動向はどうなるか。

 推背図第45象では中日米の経済戦争のことを示しており、それは決して兵器を使った戦争ではない。米ドル、人民元による通貨戦争、経済戦争を意味している。目に見える兵器を使った戦争ではないし、世界戦争はあり得ない。得をする国や人が誰もいないからだ。経済力では中米逆転は近い。推背図第47象は中国でスーパーコンピューターが発明され、日本や欧米をしのぐスパコンになる。第50象では2022年に米国の株価が大暴落し、米ドルが下落して米国経済が危機的状態に陥ることを示している。

 ――天災についてはどうなるか。

 2001年に45象を解釈した時にも08年の北京五輪で中国が金メダル獲得数1位になることや中国の四川大地震、30年後、米国西海岸で大地震が発生し、いくつかの島が沈没することを予想している。第46象は大気汚染など環境問題を示唆し、地球の資源はわれわれ80億人を養うには今後1000年では足らなくなる。第59象で終末について記され、このままでは西暦3000年で全てが終わることになる。オゾン層の破壊、地球温暖化の加速など、環境破壊で地球の生命力は徐々に失われつつあり、異常気象は天の警告だ。

 莫天賜(アラン・モリス) 1938年、香港・元朗錦田生まれ。原籍は中国広東省新会。父は香港で英皇書院を創立した英国人アルフレッド・モリス氏。母・羅惠徳さん(香港無線TV開局時の芸能人)の影響で幼少期から道教を学び、易や方術、東洋医学、命学、相学、卜学(ぼくがく)を習得し、養生術にも精通している。莫何敏儀夫人との間に一男一女。長男・莫理斯氏は英ケンブリッジ大学で法律博士号を取得し、香港大学客員教授。長女・莫文蔚(カレン・モク)さんは香港の人気歌手で女優。著書に「カレン・モクへの嫁入り道具 家庭幸福スープ」(圓方出版社)、「推背図」(同)など。75歳。