マニラ首都圏で深刻な水不足
フィリピンのマニラ首都圏で水不足が深刻化し、首都圏水道局への不満が高まっている。広い範囲で断水が発生し市民の生活は混乱に見舞われ、病院や商業施設にも影響を及ぼした。今後もエルニーニョ現象の影響で、まとまった降雨量が期待できないとの観測もあり、新しいダム建設の推進など根本的な改善が求められている。
(マニラ・福島純一)
ドゥテルテ大統領 水道局の管理能力に不満
「毎年のこと、なぜ準備できない」
3月中旬にマニラ首都圏の水がめの一つであるラメサダムの水位が69メートル以下となり、過去10年間で最悪の水不足となっていることが分かった。これによりラメサダムを管理するマニラ・ウォーター社が水を供給するマニラ首都圏東部を中心に大規模な断水が実施され、市民生活は大きな混乱に見舞われた。断水が1週間以上も続いた地域もあり、市民は連日のように消防車による水の配給を行列をつくって待つという非常事態が続いた。
最も深刻な影響を受けたのは病院施設で、断水の影響で衛生状態の悪化が懸念され、受け入れ患者の制限を強いられたほか、出産する妊婦には新生児のためにボトル入りの水を持参するよう要請するなどの対応に追われた。ショッピングモールなどの商業施設も、トイレの一部を閉鎖するなどの影響を受けた。
最終的に断水の状態を改善させたのは、ドゥテルテ大統領の鶴の一声だった。マニラ首都圏西部を担当するマイニラッド社に対し、管理するアンガドダムの放水やマニラ・ウォーター社への水の供給支援を要請したのだ。アンガドダムはマニラ・ウォーター社が管理するラメサダムの上流に位置するが、同じように貯水量が低下しているとして放水を渋っていたのだ。結局、今回の水不足はエルニーニョ現象の影響があるにせよ、首都圏水道局とマニラ・ウォーター社の管理能力不足が大きな要因であることが分かった。
下院と上院議会で行われた水不足をめぐる調査委員会では、給水サービスの契約を果たせなかったマニラ・ウォーター社の過失を追及し、消費者に補償を与えるべきだとの批判が相次いだ。深刻な断水に対し下院議員を中心に集団訴訟の動きも出ており、マニラ・ウォーター社は影響を受けた地域の基本料金を割り引くほか、24時間の断水が続いた最も深刻な地域では料金を請求しない方針を示すなどの対応に追われた。
ドゥテルテ氏は13日の演説の中で、「まだエルニーニョが訪れていなのに水不足とはどういうことか」、「毎年のことなのになぜ準備できないのか」と訴え、首都圏水道局の管理能力に対する不満をあらわにした。ドゥテルテ氏は3月の段階で首都圏水道局の職員の処分に加え、水道事業者であるマニラ・ウォーター社との契約を打ち切る可能性を示唆し、4月中に決定する意向を示していた。16日にはマニラ・ウォーター社のカルピオ最高経営責任者が、大規模な断水の責任を取って辞任した。
首都圏の慢性的な水不足の解消に向け、首都圏近郊のリサール州で建設予定のカリワダムの完成が急がれる。しかし、環境保護団体や先住民族などから反対があるほか、ドゥテルテ政権が中国からの融資で建設を決定したことをめぐり、契約内容にフィリピンにとって不利な条項があるとの懸念が浮上。2023年の完成を目指す建設計画は遅々として進んでいない。
水不足は雨季が始まる7月には解消される見通しだが、エルニーニョ現象の影響で降雨量は期待できないとの見方もあり、予断を許さない状況だ。水道事業者を変更したところでダムの完成が早まるわけでもなく、人口増加が続くマニラ首都圏の危うい水道事情は、今後も市民生活や商業活動の悩みの種となりそうだ。