昇龍道ドラゴンルート

日本版ロマンチック街道に

昇龍道ドラゴンルート―昇龍道ドラゴンルート推進協議会理事長 多田 空仁彦氏に聞く

 観光ルート「昇龍道」(ドラゴンルート)を発案したのは能登半島・和倉温泉の老舗旅館多田屋の会長・多田空仁(くに)彦さんだ。能登半島の形が「龍の頭部」に似ていることに発想を得たのがきっかけだった。ドイツのロマンチック街道のような、知名度の高い観光ルートの幹に育てたいとの並々ならぬ思いがある。現在、昇龍道ドラゴンルート推進協議会の理事長として、PR活動に奔走している。
(聞き手=日下一彦・金沢支局長)

歴史文化など魅力凝縮
本物を見せることが肝要

「昇龍道」は中部国際空港(セントレア)と北陸の小松・富山空港を結ぶ愛知・岐阜・富山・石川の4県域連携インバウンド観光ルートとのことですが、ここに至った経緯をお聞かせください。

多田空仁彦氏

 ただ・くにひこ 1951年、東京都世田谷区生まれ。立教大学社会学部観光学科卒業。石川県七尾市にある和倉温泉の老舗旅館・多田屋の女将・佐永子さんと結婚。夫婦で旅館経営に携わり、現在、多田屋の会長。昇龍道ドラゴンルート推進協議会の理事長も務めている。

 日本を訪れる外国人観光客には、東京~箱根~富士山~名古屋~大阪を結ぶゴールデンルートがとても人気があります。これに次いで、日本を誇れる代表的な大型観光ルートとして浸透させたいと取り組みました。ドイツのロマンチック街道のように、ヨーロッパを旅行するなら、「まずロマンチック街道に出掛けたら」と、“ザクッ”と言えるようなルートを考えました。

 昇龍道には日本の魅力が凝縮されています。熊野古道や合掌造りなどの世界遺産、多くの名湯、美しい自然環境、徳川家康をはじめとする歴史文化・建造物、伝説や祭りなどが盛りだくさんで、観光スポットにも恵まれています。また、牛肉料理に新鮮な魚介類など、美味しい食材にも恵まれています。

 推進協議会が一般社団法人になって、今年でちょうど10年目になります。先月はアメリカの大型バイク「ハーレーダビッドソン」の愛好家を招き、ツーリングしながらその魅力をユーチューブに発信し、大きな反響を呼びました。

ドラゴンルートの魅力を今後どのように発信していく予定ですか。

 ドラゴンルートでは、東海北陸自動車道がメインルートの一つです。ここはトンネルが多く、五十数カ所あります。トンネルは走りにくくて暗いとのマイナスイメージが付いて回りますが、これをいかにプラスに変えられるか、何かを感じられるルートにしたいと思っています。現在、ドラゴンルートは名前が先行していますが、「では龍がどこにいるんですか。龍の話がありますか」といった問い合わせが出てきています。

 それでトンネルの出入口に龍の絵を描いたり、あるいは龍のパネルをくっつけたりして、文字通り「龍の道」にしてはどうかとの提案が出てきています。せっかくたくさんのトンネルがあるんだから、それをうまく活用して、各トンネルの出入り口に龍の絵があると、実に壮大なルートになります。

 しかも、日本だけでなく、中国や東南アジア、アメリカなど世界各地の龍を、その国の作家に描いてもらってはどうかというものです。トンネルは53カ所ありますから、世界中の龍がほとんど描けるのではないでしょうか。

 それに1番から53番まで番号を打って、描いた作家にその龍にまつわるコラムを1ページほど書いてもらい、それをまとめて一冊の本にすると、ますます関心が出て面白いでしょう。観光でここに来ても意味が生まれます。

 日本の子供たちも、ドラゴンルートのマップを見ながら、次のトンネルはどこの国の龍が出てくるのか、楽しみながら走ることができる。そうすると、ますますPR効果が出ます。描かれた龍の違いを楽しみながら、国や地域の違いなども体感できるでしょう。また、蛍光色を使って、夜になると龍の絵が発光するのも面白いですね。

 完成すれば、大変珍しいモニュメントになるでしょうから、世界中から観光客がやって来るでしょうね。ただし、それを実現させるには、道路交通法などクリアしなければならない課題も多いでしょう。まず、取っ掛かりとして、このルートで最も長い「飛騨トンネル」の手前に「ウエルカム」の文字と一緒に龍を描いてもいいかなと考えています。

海外から来たツアー客と一緒に各地を巡ると、それぞれの観光客に特徴はありますか。

 東南アジアと欧米のお客様をそれぞれ案内すると、その違いがよく分かりました。欧米の方は気多大社を参拝させてもらった時に涙を流す姿を見ました。何か感じるものがあったのでしょうね。一つ一つの神事に対してちゃんと受け止めて、鳥居のくぐり方や手の洗い方など、お教えするとその通り、真剣にやります。見えない世界をきちっとお伝えした方が喜ばれると思いました。特に能登には古刹(こさつ)や由緒ある仏閣が多いので、滞在期間の長い欧米の方は、精神的なものをじっくり見たいという傾向があります。

 関市(岐阜県)の刀鍛冶を見学した時も、1回叩くたびに魂を入れるということに感動していました。打ち上がった刀を持てるだけでも「本物だ」といって震えるほど感動しています。偽物ではだめですね。いかに本物をお見せできるか。田舎の人は大したことじゃないよと思っていても、本当はすごいことで、実は灯台下暗しということがある。それを掘り出して、きちっとお伝えしていくことがいいですね。

昇龍道
 昇龍道とは 昇龍道ドラゴンルート推進協議会(金沢市)が持っている商標で、中部地方の愛知県・岐阜県・富山県・石川県を南から北へと縦断する新しい広域観光ルート。ここにはさまざまな伝統や歴史文化、四季折々の美しい自然景観や恵まれた山海の食材、日々の疲れを癒すいで湯など魅力的なスポットが数え切れない。テーマ性・ストーリー性を持った観光地域としてJNTO(日本政府観光局)に認定された。「昇龍道」は、能登半島の形を龍の頭に見立てると、神秘的な昇り龍のように見えることから名付けられた。