ドゥテルテ比大統領の健康問題

政権左右する不安材料
辞任なら野党副大統領が昇格

 健康問題が浮上し、フィリピンの剛腕大統領の勢いに陰りが見え始めている。自らがんの可能性を語るなど、これまでにない気弱な一面を見せ、世論調査での政権支持率は過去最低となり、半数以上がドゥテルテ大統領の健康に不安を感じていると回答した。病気で任期途中に辞任となれば、ロブレド副大統領が所属する野党に政権を譲ることになりかねず、大統領の健康問題は次期政権を左右する大きな不安材料となりつつある。
(マニラ・福島純一)

ドゥテルテ大統領

フィリピンのドゥテルテ大統領=9月13日、ケソン(EPA時事)

 閣議を欠席するなど、健康問題がささやかれていたドゥテルテ氏はこのほど、病院でがん検査を受けていたことを認めた。結果的にがん検査は陰性であることが判明し、安堵(あんど)が広がったが、「もしステージ3(がん腫瘍が浸潤しリンパ筋にも転移)であればもう治療は必要ない。この職場で苦痛を引き延ばすつもりもない」と述べるなど、がんであれば公表する意向を示すとともに、任期途中の辞任の可能性にも触れるなど気弱な一面も吐露した。

 ドゥテルテ氏は以前から片頭痛に悩まされていることで知られており、これを理由に2016年にオバマ米大統領(当時)も出席したラオスでの東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を欠席するなど、職務にも影響を及ぼしている。また若い頃のバイク事故による腰の痛みも抱えており、強力な鎮痛剤を服用していることも公表している。

 これまでにも急に公の場に姿を見せなくなることがたびたびあり、大統領の健康問題に対する不安は常にささやかれ続けてきた。73歳のドゥテルテ氏にとって、国際的に非難されている人権問題よりも、健康不安が政権を左右する時限爆弾になりかねない状況だ。

 16年の大統領就任当時は90%以上の支持率を誇ったドゥテルテ氏だが、民間調査会社のソーシャル・ウェザーステーションが5日に発表したドゥテルテ政権に関する世論調査では、政権支持率が65%にまで落ち込んでいることが分かった。前回6月に発表された調査結果では72%で、7ポイントも減少したことになる。支持率から不支持率を引いた純支持率も、前回の58%から50%に落ち込んだ。

 また、同時期に発表されたドゥテルテ氏の健康問題に関する世論調査では、55%が健康問題を「心配している」と回答。また61%が大統領の健康問題は公共的な問題であり、国民にすべての情報を開示すべきだと回答するなど、国民の間に広がる健康問題への不安が、支持率低下の一因となっている可能性も指摘されている。

 万が一、ドゥテルテ氏が健康問題で任期半ばに辞任するようなことがあれば、野党のレニー・ロブレド副大統領が後任として政権を引き継ぐことになる。ロブレド氏は麻薬戦争をめぐる超法規的殺人を強く批判し続け、閣僚職を辞任するなどドゥテルテ氏との対立が表面化している。

 フィリピンでは大統領選とともに副大統領選挙も行われ、ロブレト女史は16年選挙当時にアキノ前大統領側の与党陣営から副大統領選に出馬した。一方のドゥテルテ氏は親マルコス元大統領だ。1986年、マルコス政権を打倒しアキノ政権を樹立したエドゥサ革命を前後するマルコス家とアキノ家のが因縁の政争が、現在の正副大統領の関係に影響している。

 22年の次期大統領選挙を迎えれば、ドゥテルテ氏が後継者として指名している娘のサラ・ドゥテルテ氏(現ダバオ市長)が最有力候補とみられている。

 しかし、このまま大統領の支持率の低下が続いて政権末期にレームダック化したり、健康問題で野党が政権を引き継ぐなどの混乱があれば、サラ氏への権力継承が難しくなる可能性もある。サラ氏は来年の中間選挙で次期大統領選に向け、まず上院選に出馬すると考えられていたが、結果的にダバオ市長の再選を目指す方針を示した。父親のドゥテルテ氏をなぞり、市長から大統領を目指すとみられている。