正念場を迎える競馬


地球だより

 タイの首都バンコクには二つの競馬場があった。「あった」と過去形で書いたのは、その一つのナンロン競馬場が今秋、閉鎖されたためだ。ナンロン競馬場は100年の歴史を持つタイ競馬の聖地だった。ダービーが行われるのもナンロン競馬場と決まっていた。だが、2000年初頭にピーク打ちした一日の観客数は近年、10分の1の3000人までに減少。芝の管理や施設に投資できないほど、財政的に厳しい状況になっていた。

 財政を補填(ほてん)するため、ゴルフ場も競馬場の中に造っていた。私も何度か利用したことがある。競馬場の中に18コースのゴルフ場を無理やり押し込んでいるため、少々、窮屈さは拭えないし、パー5のコースも少し短いのだが、何せ都心にあるので便利。朝5時にグリーンに立てば、午前10時までには支局に戻れた。

 だが、ゴルフのプレー代などたかが知れている。賭博禁止のタイでは、数少ない公営ギャンブルだったが、競馬人気の足を引っ張ったのは騎手らを巻き込んだ八百長行為だった。八百長が競馬ファンを裏切る行為であることは百も承知しながら、貧しい農村出身の騎手は手っ取り早く稼げるいかさまに手を染めがちで、それを止めるのは同業の長老といえども現実的には難しかったのだ。

 不正の横行で、ファンの心が離れていくのは、どの国にも共通することだ。タイの競馬場に入る観客にはドレスコードがあって、サンダル履きは禁止となっているが、必要だったのは騎手魂を育成する心のドレスコードだったのかもしれない。タイ競馬は今、正念場を迎えている。

(T)