フィリピンに台風上陸、被害拡大

鉱山で土砂崩れ相次ぐ

 フィリピン北部に15日上陸した台風22号(フィリピン名オンポン、アジア名マンクット)の犠牲者数が依然として拡大している。各地で発生した土砂崩れなどによって死者・行方不明者は150人以上に達した。特に鉱山での土砂崩れ被害が拡大したことを問題視したドゥテルテ大統領は、鉱山の閉鎖を検討する方針を示した。また台風上陸時に自治体を離れて職務を果たさなかった複数の首長がいたことも明らかになっており、問題視されている。
(マニラ・福島純一)

大統領、採掘停止を命令
被災地の首長に職務放棄の疑い

 21日までに台風22号による死者は88人に達し、行方不明者は64人となっている。影響を受けた被災者は80万人に上った。

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台風22号が通過した16日、マニラの船着き場に大量に打ち上げられた漂着物から竹を回収する人々

 特に犠牲者が集中したのは、ベンゲット州イトゴン町にある金鉱山で、大雨による土砂崩れが鉱山労働者の宿舎を直撃し、多数の住人が生き埋めとなった。この金鉱山だけでも25日までの死者数は少なくとも78人に達し、33人が依然として行方不明となっている。地盤が緩んだ被災地での捜索活動は二次災害の危険もあり非常に難航している。

 土砂崩れが起きたイトゴン町金鉱山は1997年にすでに閉鎖されていたが、貧しい住人たちが個人的に採掘を続けていた。採掘地域での居住は禁じられていたにもかかわらず、多くの労働者が家族と一緒に宿舎で暮らしていたという。

 背景には深刻な貧困問題がある。台風の影響で地盤が緩んでいたことから自治体や警察が避難を呼び掛けたが、住人たちは鉱山から離れることを拒んだという。貧しい家族が一瞬に土砂にのみ込まれた痛ましい災害だった。

 一方、フィリピン中部セブ州ナガ市では20日、大雨が原因とみられる大規模な土砂崩れが発生し、25日までに60人の死亡が確認され、依然として28人が行方不明となっている。現場は石灰岩を採取する採石場で、麓にあった民家が土砂にのみ込まれた。

 8月末に同鉱山周辺に複数の亀裂が走っているのが確認され調査が行われたが、鉱山会社は「亀裂は自然現象で付近の住人に差し迫った危険はない」との結論を下し、自治体は避難などの対応を行わなかった。台風22号による雨が、土砂崩れに間接的に影響した可能性が指摘されている。

 この土砂崩れの発生後、シマツ環境天然資源長官は同鉱山に採掘の停止を命じた。だが、事後対応であることは否めない。雨季もあり、台風コースになっているフィリピンで地盤は緩みやすく、常に土砂崩れは懸念されていることだ。調査に当たった鉱山会社や自治体の対応から人災とも言えそうだ。

 相次ぐ鉱山での土砂崩れ被害を受けドゥテルテ大統領は、シマツ環境天然資源長官に小規模鉱山の全面的な採掘停止を命じた。ドゥテルテ氏は「政府は鉱山から年間700億ペソの税収を得ているが、その過程でどれだけのものを失うのか?」と述べ、災害や環境破壊などあまりに犠牲が大きく、割に合わないとの考えを示した。以前から鉱山事業に否定的な見解を示していたドゥテルテ氏だが、今回の土砂崩れ災害によって鉱山脱却の方針に勢いが増すことになりそうだ。

 さらに今回の台風では、被災地であるカガヤン州とコルディリエラ地域の16人の自治体首長が、台風上陸時に自治体を離れていたことも発覚した。大統領府のロケ報道官は、職務放棄の可能性もあるとみて責任を追及する方針を示している。

 今後、内務自治省が調査チームを編成して各首長に説明を求める見通し。正当な理由がない場合、災害時の責任を果たさなかったとして、職務停止や解任の処分が下されることになる。