文氏、演説で北政策称賛

平壌共同宣言の波紋 (下)

白頭山で北主導の統一話

 北朝鮮で金日成主席が抗日パルチザン部隊にいた時の活動拠点で、金正日総書記が誕生したという中国との国境沿いにある白頭山(標高2774㍍)。その伝説は北朝鮮国内で今も語り継がれ「革命の聖地」となっているが、今回の南北首脳会談の最終日、韓国の文在寅大統領はその「聖地」に金正恩朝鮮労働党委員長と足を運んだ。

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19日、平壌の5・1競技場で行われたマスゲームを観覧後、スタンドの平壌市民15万人を前に演説する韓国の文在寅大統領(左端)=平壌写真共同取材団

 山頂付近を散策中、同行した金委員長の夫人、李雪主氏がこんな話をした。

 「わが国の昔話に、白頭で日の出を眺め、漢拏(韓国南部の済州島にある山)で統一の万歳を叫ぶという言葉があります」

 すると文大統領の夫人、金正淑氏が「漢拏山の水を持ってきました。天池(白頭山の火口湖)に行って半分は(漢拏山の水を)注ぎ、半分は白頭山の水を汲(く)んでいきます」

 今年2月、韓国平昌冬季五輪に北朝鮮芸術団を率いて訪韓した玄松月氏が、公演で独唱した曲「白頭と漢拏は私の祖国」で「統一、統一よ来い」と熱唱したことにも表れている通り、北朝鮮が白頭山と漢拏山を並べて語るのは「北主導統一の隠語」(元韓国公安筋)とされる。

 このため上記の両夫人の会話は、注意深く見れば李夫人が北主導による南北統一の意思をにじませ、それに金夫人が快く応じたやりとりだったことが分かる。

 文大統領は平壌の5・1競技場で行われた体制宣伝色の濃い大人数による集団体操、いわゆるマスゲームを観覧し終えた後、15万人の観衆を前に演説した。その際、北朝鮮の政策を称賛し、韓国の存在価値を貶(おとし)めるかのごとき発言をし物議を醸している。

 文大統領は今回の訪朝で金委員長と北の同胞が「いかなる国造りをしようとしているのかを見て心を熱くした」とした上で、「困難な時期にも民族の自尊心を守り、最後まで自らの力で立ち上がろうとする不屈の勇気を見た」と語った。これをめぐり「まるで北朝鮮を国際社会の制裁に立ち向かう闘士のように描写した」(趙寧基国民大学政治大学院教授)との批判が上がっている。

 また文大統領は「南側大統領として金正恩委員長から紹介されあいさつすることになり、この感激は言葉では表現できない」と述べた。韓国憲法は自国領土を「朝鮮半島とその周辺島嶼(とうしょ)」としており、現在の北朝鮮領も韓国の一部。このため演説では「韓国大統領」とすべきところを「南側大統領」と言い、自ら韓国領を縮小させたとの批判が出ている。

 平壌共同宣言で両首脳は「民族自主と民族自決の原則を再確認」し、「現在の南北関係発展を統一につなげる」ため「政策的に実現するため努力する」ことで一致した。要は米国など外国の干渉を退けて統一を実現させようというものだ。「北朝鮮が高麗連邦制統一に向け再び動きだした」(諸成鎬中央大学教授)との警戒心も強まっている。

 北朝鮮非核化が足踏み状態のまま南北関係の加速だけが目立っている。トランプ米大統領は金委員長との2回目会談に意欲を示し、金委員長は安倍晋三首相に会談開催を呼び掛けたというが、これ以上、北朝鮮の思惑通り事が進み過ぎないよう日本をはじめ関係国はいま一度、北朝鮮問題の展開を厳しく見極める必要がある。

(ソウル・上田勇実)