ブラジル国立博物館火災、収蔵品の9割以上焼失
ブラジル・リオデジャネイロの国立博物館で今月初め、火災が発生し、貴重な文化財の大半が焼失した。現地入りした国連教育科学文化機関(ユネスコ)の専門家たちは、博物館の復旧には10年以上を要するとみている。(サンパウロ・綾村悟)
予算削減の政府に批判噴出
3Dプリンターで収蔵品複製も
2日夜(日本時間3日午前)に発生した火災によりほぼ全焼した「ブラジル国立博物館」は、同国最古の博物館の一つだ。1818年にポルトガル王ジョアン6世が王立博物館として建設したことに始まる。ブラジル固有の動物相や植物など自然史に関する膨大な標本、人類学上の記録が保管され、南米最大の博物館として学術上、極めて貴重な存在だった。
火災は、スプリンクラー施設がなかったことに加え、近くの消火栓が機能せず、6時間にわたって博物館のほぼすべてを焼き尽くした。火災が閉館後に発生したため犠牲者は出なかったが、展示・保存されていた収蔵品約2000万点の9割以上が焼失したという。
火災が博物館を襲った背景には、財政赤字に苦しむブラジル政府からの相次ぐ予算削減があった。予算不足は、標本の展示や維持にさえ影響を与えるほどで、博物館ではクラウドファンディングを利用した寄付集めも行っていた。
老巧化による補修工事費用は何年にもわたって申請されていたが、ようやく今年度予算でスプリンクラーを含む最新の防火設備設置が認可されたばかりだった。防災対策については、専門家が何年も前から火災の危険性を指摘していた。現在も火災の原因ははっきり分かっていないが、専門家は施設老巧化による漏電を原因の一つとしてみている。
博物館には、5㌧を超える南米最大のペンデゴ隕石(いんせき)や、ブラジル国内で発見された南米最古となる1万2000年前の女性の人骨「ルチア」、世界有数の蝶(ちょう)類や翼竜の標本が保存されていた。
先住民族の言語を録音したテープも保管されていたが、そのほとんどが失われた。先住民言語の音声記録は、同じ言語を扱う先住民が存在しないため、永遠に失われる可能性もあるという。
国立博物館はリオデジャネイロ連邦大学が運営しているが、数十年に及ぶ研究成果が標本の焼失により無に帰してしまった。研究者が受けた衝撃は実に大きなものだったという。
火災を受けて、テメル大統領は「損失はあまりにも大きく、ブラジルにとって悲劇の日」「200年にわたる努力と研究、知識が失われた」とする声明を出している。
世界的にも貴重な文化遺産の焼失を嘆く声は、博物館の予算を削減した政府に対する怒りへと変わっていった。世論は政府が緊縮財政の名の下で文化や教育、科学への投資を軽視したことを厳しく批判している。
こうした中、今月13日にユネスコの視察団が被害状況を確認するためにリオデジャネイロ入りした。視察団代表のノレト氏は「博物館は魔法のように数カ月で元に戻るものではなく、少なくとも10年近い歳月がかかるだろう」と指摘した。
喫緊の課題として、建物の倒壊を避けるための措置に加え、がれきの中に埋もれているコレクションや建造物の断片の回収を挙げている。
一方、収蔵品修復と確保のための作業も始まっている。国立博物館が海外や外部の博物館などに貸し出しを行っている標本を戻してもらうことがその一つだが、海外の博物館からは標本の提供などを申し出る声も相次いでいるという。さらには、残っている標本の断片や記録などを元に、3D映像の生成や3Dプリンターなど先進技術を活用することも検討されている。
また、国立博物館の関係者らは、16日から焼失した博物館前で仮設テントでの展示を再開している。毎週日曜日に展示を続け、博物館としての機能を地域社会に対して維持していく予定だ。











