比大統領が施政方針演説、麻薬戦争の必要性強調
フィリピンのドゥテルテ大統領が、就任後3回目となる施政方針演説を行った。内政では治安当局の超法規的殺人を辞さない強硬な取り締まりに人権批判が出ている麻薬戦争について、継続の必要性を国民に訴えたほか、ミンダナオ島におけるイスラム自治政府の樹立によるイスラム武装勢力との和平実現に意欲を示した。南沙(スプラトリー)諸島を実効支配する中国との南シナ海問題をめぐっては、対中関係改善と権益保持の両立を強調した。
(マニラ・福島純一)
「私の関心は国民の人生」
マニラ首都圏の国会下院本会議場で7月23日に行われた施政方針演説で、ドゥテルテ氏は、まず国内外で人権侵害との批判を受けている違法薬物の取り締まりに触れ、「麻薬戦争の終わりはまだ遠い」と現状を訴えた。また、犯罪組織が麻薬の社会的な悪影響を知りながら排除に抵抗していると指摘し、今後も「冷酷で震え上がるような」対応が必要になると述べ、国民に理解を求めた。
さらに、厳しい取り締まりに対して人権批判が高まったことに関して、「彼らの関心は人権だが、私の関心は国民の人生」と述べ、違法薬物によって多くの若者の命や家庭が失われている現状を訴え、麻薬戦争の必要性を改めて強調した。
イスラム武装勢力とのミンダナオ和平に関しては、「和平か戦争か、歴史の岐路に立っている」と重要な局面を迎えていると指摘し、イスラム自治政府を樹立するバンサモロ基本法案の重要性を強調。これによりマニラ首都圏を中心とする不公平な経済圏からの脱却を果たし、地方の予算を増額させ開発と活性化を図る方向を示した。
さらに、テロリストの排除やイスラム勢力の武装解除を達成して紛争に終止符を打つと訴え、「再び『イスラム国』(IS)が足場を築くことは許さない」と決意を表明した。
この日、演説に合わせて署名される予定だったバンサモロ基本法案は、下院議長が突如交代する混乱で延期されたが、その後、26日に署名され、同法成立を果たした。
外交をめぐっては、「引き続き独立的な外交政策を追求する」と述べ、長期的な国家開発と安全保障が最優先事項であると強調。中国との関係については、麻薬シンジケートの摘発など国境を越えた犯罪対策で前例のない協力を成し遂げるなど、良好な外交関係の構築を果たしたとの認識を示した。
しかし、その一方で中国との関係改善が、必ずしも西フィリピン海(南シナ海)の権益を放棄するものではないと説明し、その海域でフィリピン漁船が漁を再開している実績を紹介した。今後も比中2国間のほか、東南アジア諸国連合(ASEAN)などを通じた多国間レベルの話し合いで紛争解決を目指すという。
政界や社会に蔓延(まんえん)する汚職問題に関しては、「開発プロジェクトの政府資金を奪うヒルのようなもの」と腐敗行為を糾弾し、献身的で正直な公務員の士気を失わせていると批判した。
また、過去にドゥテルテ大統領自らが任命した閣僚を汚職問題で何人も解任したことに触れ、「友情は大切だが限界がある」と述べ、友人でも容赦しない姿勢を示した。さらにビジネス手続きの簡素化や迅速な公的サービスの促進など、汚職がはびこりにくい環境の実現を目指すとした。
今回の施政方針演説で、ドゥテルテ大統領はフィリピンの国の仕組みを連邦制に移行する憲法改正を提起した。バンサモロ基本法によるイスラム自治政府樹立などを視野に地方自治権を強化する考えだが、現行1期6年の大統領任期を変更し再選に道を開くとの臆測に関しては、自らの任期延長には繋(つな)がらないと強調し、国民に支持を求めた。
施政方針演説が行われた下院本会議場の周辺では、ドゥテルテ氏の政策に反対する左派系グループを中心とした抗議集会が開催され、約8000人(警察発表)が集結。麻薬戦争での超法規的殺人などに対し批判の声を上げた。