ドゥテルテ比政権3年目 テロ対策で評価、経済は停滞
ドゥテルテ大統領が就任して3年目を迎えた。強力なリーダーシップでイスラム過激派対策を推し進め、国民の支持を高い水準で維持する一方で、人権問題や暴言は国内外で依然として反発を生んでいる。経済政策の柱だったインフラ開発の停滞も浮き彫りとなっている。
(マニラ・福島純一)
支持率高いが暴言癖直らず
民間調査会社のソーシャルウェザーステーションが、4月に発表したドゥテルテ大統領の政策に関する世論調査では、70%が満足と答えるなど依然として高い支持率を維持している。地元ダバオ市があるミンダナオ島では、支持率が87%と特に高い水準となっており、テロ対策やマラウィ市の復興など南部を中心とした政策が評価を受けている。
しかし社会階層別で見ると、貧困層になるほど支持率が低下している現実もある。比較的裕福なAクラスからDクラスが70%を超えているのに対し、最も貧しいEクラスでは、前回の調査の78%を下回る65%にまで落ち込みを見せ、貧困層に失望が広がっている実態が浮き彫りとなっている。
失望の原因としては、貧困層にまで政策的恩恵が行き渡らず、実感を伴わない経済成長や高い失業率がある。さらには貧困層の売人や常習者を狙い撃ちにした、麻薬取り締まりなどに不満が高まっている背景もある。
国家警察によるとドゥテルテ政権下における麻薬捜査での死者は5月の発表で約4200人、逮捕者は約14万3000人にも達している。しかし、人権団体は死者1万2000人と主張しており、超法規的殺人の犠牲者のほとんどは貧困層と考えられている。
失業率に関しては、民間調査会社のソーシャルウェザーステーションが5月に発表した調査では23・9%に達し、2016年のドゥテルテ大統領就任以来、最も悪い数値となった。一方、国家統計局の3月の発表では失業率は5・3%と低い数値に抑えられており、現実とかけ離れた数値も不信を招いている一因のようだ。
また最近では、貧困層を狙い撃ちした「タンバイ」の取り締まりを実施し、人権問題を再燃させている。
タンバイとは失業者や路上でたむろしたり暇つぶしをしている人々を指す言葉で、路上での飲酒や喫煙などを禁止する条例の違反を取り締まるという名目だが、狭く風通しの悪い部屋に住む人々にとって、路上が生活空間の一部となっている現実を無視した「貧困層いじめ」との批判も高まっている。6月から始まった3週間ほどの取り締まりで、約2万8000人が全国で逮捕された。
さらに、ドゥテルテ氏の個性となっている過激な発言をめぐっては、最近も聖書の内容をめぐり神を「愚か」呼ばわりし波紋を広げている。
ドゥテルテ氏は先月22日の演説で、「完璧なものを創造しておきながら、アダムとイブに罪をもたらす禁断の果実を与えて破滅させた」「この愚かな神は誰だ?」と持論を展開。カトリック教会から激しい批判を受けたが、謝罪を拒否した。カトリック教会とは麻薬戦争をめぐる対立が続いていたが、今回の発言でさらに溝を広げた格好となった。
中国が人工島に軍事拠点を構築している南シナ海をめぐっては、カエタノ外相が資源採掘のような一線を越える動きがあれば「戦争も辞さない」と中国を強く威嚇する一幕があったが、インフラ整備などの支援と引き換えに、領有権問題を棚上げにする基本方針は変わっておらず、今後も大きな変化は見られそうにない。
また経済対策の柱となっているインフラ事業の遅れも浮き彫りになっている。ドゥテルテ氏は「ビルド・ビルド・ビルド」と呼ばれるインフラ事業を推進し、2022年まで200万人の雇用を目指していたが、多くの事業がいまだに着工すらされていない実態も明らかになっている。人権問題の影響とみられる外国投資の減少や、12年ぶりのペソ安などが庶民生活を圧迫しており、3年目を迎えたドゥテルテ政権には、インフラ事業による財政悪化を克服し、国民が実感できる経済実績が求められる。