コロンビア次期大統領に和平合意反対派

 6月17日に実施されたコロンビア大統領選挙の決選投票で、ゲリラとの和平合意反対派のイバン・ドゥケ上院議員(41)が勝利した。ドゥケ氏が所属する保守政党は、合法化したゲリラ政党の権利を制限する憲法改正を目指している。
(サンパウロ・綾村 悟)

ゲリラ政党規制を主張
ドゥケ氏、憲法改正視野に

 コロンビアでは、1960年代から半世紀以上内戦が続いてきたが、2016年に同国最大の左翼ゲリラ「コロンビア革命軍(FARC)」との和平合意が成立。その後、FARCは武装解除に応じるとともに、「人民革命代替勢力(FARC)」として合法政党となり、現在、上下両院合わせて10議席を保有している。この10議席は、和平合意に基づき26年までの期限付きで保証されたものだ。

ドゥケ氏(左)とウリベ氏

ドゥケ次期コロンビア大統領(左)とウリベ上院議員=民主中道党提供

 FARCとの和平合意は、内戦終結への大きな足掛かりとなったが、一方で合意内容がゲリラ側に寛容過ぎるとの批判もあった。批判の急先鋒(せんぽう)となったのが、対ゲリラ強硬派として知られるアルバロ・ウリベ前大統領(66)だ。

 ウリベ氏は、牧場主だった実父をFARCに拉致された上で殺害された内戦犠牲者家族の一人だ。同氏は02年の大統領選挙で対ゲリラ強硬策を訴えて当選すると、徹底したゲリラ掃討作戦でFARCを大きく弱体化させた。

 ウリベ氏の後を受けて10年に就任したサントス大統領は、ウリベ氏の下で国防大臣を務めたこともあった。実質的にウリベ氏の後継候補として出馬したが、就任後は対ゲリラ政策を前政権から大きく転換、FARCとの和平交渉を開始した。

 ウリベ氏は、サントス政権の和平交渉を中心とした対ゲリラ政策を批判。自身が党首となって反共保守政党「民主中道党」を設立し、左翼ゲリラや麻薬組織に対する強硬姿勢が多くの支持を集めた。

 16年10月に実施された和平合意案の是非を問う国民投票は当初、賛成多数で承認されると予想されていたが、反対派が「合意案はゲリラ側に有利過ぎる」と一大キャンペーンを展開し、否決された。国民は半世紀続いた内戦の傷跡を忘れていなかった。

 さらに、今年3月の国会議員選挙では、民主中道党が躍進し、第1党として議席を伸ばすと同時に、ウリベ氏も過去最高得票で上院議員に当選した。そのウリベ氏が、今回の大統領選挙で推したのが、米州開発銀行出身のドゥケ元上院議員だった。

 ウリベ氏と同様に対ゲリラ強硬策を訴えるドゥケ氏は、先月17日の大統領選挙決選投票で左派で元ゲリラ構成員のグスタボ・ペトロ元ボゴタ市長に10%以上の得票差をつけて圧勝した。ドゥケ氏は、和平合意の内容が誘拐や麻薬密売など犯罪や人権侵害に加担したゲリラ幹部らに寛容過ぎるとして、和平合意の見直しを主張、和平反対派の票を集めた。

 ただし、「ドゥケ候補の人気はウリベ議員によるもの」(コロンビア・エルコメルシオ紙)との見方が強い。ドゥケ氏は、サントス大統領のように閣僚経験がなく、政治キャリアも少ないだけに、ウリベ氏と所属政党が政権に与える影響力は無視できないとみられている。

 そうした中、民主中道党は先月27日、上院で、国防関連の法案作成や委員会へのFARCの関与を制限する憲法改正を提案した。これは大統領選挙中にドゥケ氏が提案していた内容だ。民主中道党は、元ゲリラだけでなく内戦犠牲者とその家族にも国会の議席を保証すべきだと提案している。

 FARCや現政権は憲法改正に反対しており、少なくとも8月の政権交代までは和平合意の内容が覆されることはない。ただし、新政権発足後は、合意見直しが進む可能性が非常に高い。ドゥケ氏が政権運営でどのような手腕を見せるか、国家破綻の危機にある隣国ベネズエラの動向と併せて注目されている。