比政権、テロ掃討に本腰

ミンダナオ島で戒厳令延長
IS系、新人民軍の壊滅へ

 ドゥテルテ大統領は昨年末、国内外からの批判を受けながらもフィリピン南部ミンダナオ島における戒厳令の1年延長に踏み切った。目的は南部を中心に活動するイスラム過激派と、新たにテロ組織に指定した共産ゲリラの掃討だ。しかし、戒厳令の延長は強権体制を強化するための方便との見方もあり、全国に戒厳令を拡大する懸念も依然としてくすぶっている。
(マニラ・福島純一)

ドゥテルテ氏

南部ミンダナオ島イリガン市の駐屯地を視察するフィリピンのドゥテルテ大統領(中央左)=昨年7月(AFP=時事)

 このほど国軍が明らかにした情報によると、スルー州やバシラン州を拠点とするイスラム過激派のアブサヤフの勢力は400人程度。一方、ミンダナオ島中部を拠点とするバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)は300人程度となっている。ミンダナオ島の国軍司令部はこれらの「イスラム国」(IS)系過激派を最大の脅威と捉え、年内の壊滅を掲げている。

 国軍によると昨年に無力化したアブサヤフ構成員は353人に達し、前年の75人を5倍ほど上回った。このうち殺害されたのは127人で、投降が136人、90人が逮捕となっている。誘拐事件は12件で前年の23件から約半数となっているが、依然として3人のフィリピン人と6人の外国人が人質として拘束されており、国軍が救出を試みている。

 アブサヤフによる襲撃回数は77回で前年の123回を大きく下回り、国軍の掃討作戦による弱体化も表面化している。一方、昨年に殺害されたBIFF構成員は182人で逮捕は24人だった。

 掃討は順調に進んでいるように見えるが、国境管理の甘いフィリピン南部の海域から、マレーシアやインドネシアのテロリストが侵入しているとの情報もあり、国軍によるとミンダナオ島では少なくとも48人の外国人テロリストが活動しているという。

 外国人テロリストは、新しく加入した構成員に爆弾製造や射撃などテロ活動に関する訓練を施していると考えられており、依然として南部がテロの温床となっている実態も浮き彫りとなっている。

 イスラム過激派に加わる若者も後を絶たず、すでにマラウィ市占拠事件が起きる前の数まで回復しているという情報もあり、掃討は一筋縄ではいきそうもない。

 一方、政府による和平交渉中止や戒厳令布告に反発する共産勢力の軍事部門である新人民軍(NPA)も、各地で反政府活動を活発化させている。国軍によるとミンダナオ島西部でNPAの影響下にあるバランガイ(最小行政地区)は、2016年末に15カ所だったものが昨年6月の時点で49カ所に増加。ミンダナオ島東部でも2016年末に189カ所だったものが368カ所にまで増加しているという。和平交渉再開に伴う停戦期間中に水面下で勢力拡大を図った結果とみられ、これがドゥテルテ大統領の共産勢力に対する強い不信感を招き、NPAのテロ組織指定に繋(つな)がった。

 NPAは治安部隊に対する襲撃のほか、政府事業を請け負う建設会社や外資系企業に対する恐喝が主な活動となっており、日本向けのバナナを栽培する日系企業もターゲットとなっている。ダバオ市では今月、住友商事の関連企業「スミフル・フィリピン」所有のトラックが強奪される事件が起きている。NPAは活動資金源としている「革命税」を支払わない企業を襲撃して重機や施設などに放火する恐喝行為を繰り返しており、南部の経済発展を阻害する要因の一つとなっている。

 NPAの勢力は全国で約4000人で、イスラム過激派に比べてはるかに多く、組織的だ。ミンダナオ島だけでなくルソン島やフィリピン中部などで広範囲に活動していることから、ドゥテルテ大統領がNPAの掃討を理由として戒厳令を全国に拡大する可能性も懸念されている。

 戒厳令をめぐっては人権侵害の観点から反対意見も根強く、左派系政党の議員らを中心に最高裁に期限延長の差し止めを求める動きも出ている。