中国原潜が尖閣水域進入、軍事挑発強化の可能性 川村純彦氏

第1列島線突破の試み


元統合幕僚学校副校長・海将補 川村純彦

 中国海軍のフリゲート艦と共に、「商(シャン)」級攻撃型原子力潜水艦が11日、初めて尖閣諸島の接続水域に潜没航行しながら進入した。日中関係改善の兆しも見えつつある中、なぜこのタイミングなのかと国内は騒然としている。

川村純彦氏

 しかし、そもそも日中の外交問題と軍事的問題は分けて考えなければいけない。日中間の友好ムードは確かにこれまでよりも高まってはいるが、一方で、米国のトランプ大統領は北朝鮮問題で中国に期待を裏切られたという思いが強く、中国に対し冷ややかな態度を取り始めている。従って、日本としても今回の事案はそれほど日中外交へのインパクトにはならない。あくまでも軍事的問題として捉えるべきだ。

 中国は、太平洋に向けて勢力拡大を図っているわけで、そのためには中国としては第1列島線の外に出て、米軍と軍事的に対抗する必要がある。4年前、中国の潜水艦が太平洋における活動の帰路に宮古島周辺の接続水域に進入したことがあったが、今回も太平洋からの帰還の途中であった。また、中国空軍が昨年11月から12月にかけて、宮古海峡を突破する訓練を9回も繰り返したが、これらはみな第1列島線を突破するための一連の試みとみることができる。

 ところが、その中国にとっては南西諸島が邪魔だ。日本の自衛隊は現在、この地域に対空・対艦ミサイルをハリネズミのように配備しているので、ここを突破するのは困難になっている。中国としてはこの状況を放っておけない。そこで領有権を主張している尖閣を打開の手掛かりにしようとしているのだ。中国は尖閣の周辺海域に3、4隻の公船を配置し、常態的に領海侵入を繰り返している。これに対しても日本側は巡視船を増強して数的優位を確保しながら対処しているので、中国は手詰まり状態になっている。そのため中国は今後、尖閣をめぐり軍事的な挑発を強めてくる可能性がある。

 中国は静粛性を高めるなど潜水艦の性能向上に躍起だが、海上自衛隊の対潜戦力は世界トップクラスだ。私は米軍にも負けないと思っている。南西諸島海域を通過する中国の潜水艦は必ず捉えることができる。今回の原潜も潜没航行時から公海上に浮上するまできちんと捕捉している。ところが、中国もAIP(非大気依存推進)を備えた通常型潜水艦を配備し始めた。AIPは大気中の酸素を取り込むために浮上したり、シュノーケル航走をしないで潜航できる技術で、この潜水艦や原潜で台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡を通過されたら捕捉が困難になる。

 日本のネックは情報能力だ。この点では、米軍は広大な太平洋でも敵の潜水艦を探索できる情報能力を持っている。今回も、米側から中国原潜の行動に関する情報提供を受けて、それを分析、対処したものと考えられる。日本にとっては、情報能力の欠如を補うという意味でも日米同盟の強化は極めて重要だ。