北朝鮮の平昌五輪参加、透けて見えるソフト戦術
韓国で来月9日開幕する平昌冬季五輪に北朝鮮が突如、参加することが決まった。選手団や応援団、芸術団など数百人規模の大所帯を送り込んでくる見通しだが、過去、スポーツ大会を政治宣伝の場に利用してきた北朝鮮のソフト戦術も透けて見える。
(ソウル・上田勇実、写真も)
楽団派遣など融和演出
「非核化」圧迫の回避も狙う
北朝鮮が最高指導者、金正恩朝鮮労働党委員長の新年辞で平昌五輪参加の方針を明らかにしてからわずか1週間あまりの間に途絶えていた南北対話ルートが開かれ、南北当局間としては約2年ぶりとなる高位級会談が実現し、それを通じ北の正式参加が決まった。
とどまるところを知らぬ核・ミサイルの脅威に国際社会が警戒を強めていた最中、南北が水面下で申し合わせをしていたのかと思うほどトントン拍子に事は運んだ。
もともとフィギュアスケートのペア以外は出場枠のなかった北朝鮮が、その唯一の出場申請を見送った後に五輪参加を言い出すのは不自然そのもの。当然、韓国国内でも保守派を中心に「ニセの平和攻勢だ」「時間稼ぎして非核化の圧迫を避けたいだけ」「制裁による打撃を和らげる魂胆なのでは」といった懐疑的な声が上がっている。
しかし、北朝鮮との対話にこだわる文政権は喜色満面で、韓国国民の大半も歓迎ムード。北朝鮮の脅威はどこかへ吹っ飛んでしまった。北朝鮮が親北・文政権と融和演出に乗り出した格好だ。
この光景を見ながら思い出すのは2005年9月の仁川アジア陸上大会だ。当時、北朝鮮は選手団の他に女子高生・女子大生約100人から成る応援団、いわゆる“美女軍団”を派遣してきた。
スタンドでは揃(そろ)いのTシャツを着て、多様な小道具を使い一糸乱れぬ応援。屋内外のステージでは地元市民を前にチョゴリに身を包んで歌と踊りを披露。「ウリ(わたしたち)民族同士」を共通スローガンのように連呼し、観衆はキレイで芸達者な彼女たちにただただ魅了された。
“美女軍団”の中には後に金委員長の夫人となる李雪主氏の姿もあり、親北反米の市民団体が主催する交流行事で中心メンバーとして歌う場面もあった。
当時は文大統領が青瓦台(大統領府)秘書室長として直接支え、今なお精神的な師と仰ぐ盧武鉉大統領が政権を執っていた時代。今回の五輪も開会式での南北合同入場行進、女子アイスホッケーの南北単一チーム結成、金委員長の元カノという噂もある玄松月氏が団長を務めるガールズバンド・牡丹峰(モランボン)楽団との共演などが想定され、「盧政権時代の再来」を予感させる。
北朝鮮が今回の五輪に参加することで、韓国内では北朝鮮の真意に疑問を抱く警戒論と対話姿勢を評価する歓迎論に世論が二分されるいわゆる“南々葛藤”が生じているが、これも北朝鮮の狙いの一つとされる。またドタキャンされる可能性もなきにしもあらずの中、「参加してあげる」という上から目線で韓国を威圧する北朝鮮のペースで五輪は幕を開けそうだ。