軍拡と強権統治続ける中国

ユーラシアアジア動向セミナー

 ユーラシアアジア動向セミナー(中国研究所・アジア調査会共催)が6日、東京港区の毎日ホールで開催された。拓殖大学名誉教授の茅原郁生氏が「習近平2期政権と対UA戦略~一帯一路戦略に通じた中印関係の行方」、ユーラシアコンサルタント代表取締役の清水学氏が「米露中の対南西アジア政策の現状と課題」をテーマに語り、軍拡と強権統治で100年マラソンを走る中国にどう対処すべきか論じた。
(池永達夫)

「日米豪印の地域同盟を」茅原郁生氏
「パキスタンに反中感情」清水学氏

茅原郁生

茅原郁生氏

 まず茅原氏は、「核ミサイル問題では北朝鮮が悪玉扱いだが、その陰で中国が着々と進めている。最大の核保有国である米露は、核軍縮体制下で減少へ転じている中、中国は軍拡路線をなお推進し、核の世界において影響力を持とうとしている」と語った。

 茅原氏はまた、「これまで近海だけで、遠洋に出ることはなかった中国海軍が、西太平洋に出ての訓練が通常業務になっている。さらにパキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港、ミャンマーのチャオピュー港など『真珠の首飾り』と呼ばれる港湾開発や、ギリシャのピレウス港では民間企業の名を装って港湾を買収し、ジブチには軍事基地を構築するなど海洋進出には目ざましいものがある」として、「海洋大国」に向けた中国の布石打ちの現状を列挙した。

清水学

清水学氏

 茅原氏はそうした膨張する中国への対応策として、「日米豪印のダイヤモンド型の地域同盟の構築を急ぎ、この地域での戦争勃発を防いできた米軍事力のプレゼンスの維持が重要になる」との見解を述べた。

 その上で茅原氏は「中国は社会的訓練が行われていない、やや粗暴な若者だが、分別をわきまえた大人にし、責任ある大国にするための関与政策の推進が求められる」と結論付けた。

 なお、シルクロード経済圏構築に向けた中国の「一帯一路」戦略に対し、主催者あいさつの中で田中哲二・中国研究所会長兼アジア調査会参与は「日本の中には日中国交回復時のような『バスに乗り遅れるな』といった空気があるが、それでいいのか」と警鐘を鳴らした。

田中哲二名

田中哲二氏

 これに関連し茅原氏は、「80カ国が加盟したAIIB(アジアインフラ投資銀行)は、本部は北京、総裁は中国人、理事会は設けないなど、中国のための投資銀行というベースがある。最大出資国の中国とすれば当然という意識だが、マニラに本部があるアジア開発銀行は国際公共財としての公共性が担保され、理事会がしっかり管理している」と述べ、事実上の拒否権を持ち公共財的認識に疑問が残る中国の恣意的運用に懸念を示した。

 AIIBで議決するには75%以上の賛同が必要だが、最大出資国の中国は議決権の27・5%を所持、事実上の拒否権を持っている。

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シルクロード経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議に臨む中国の習近平国家主席(右端)やロシアのプーチン大統領(右から2人目)=5月14日、北京(EPA=時事)

 一方、清水氏はグワダル港を訪問した経験を語り、「1956年までオマーンの飛び地だったが、パキスタンに組み込まれた。だからアラブの匂いがする。また、パキスタン西部の州バロチスタンもパキスタンへの編入に違和感を持ち、反政府感情が高く、インドへの親近感もあるほどだ」と述べ、グワダル港のあるバロチスタン州でしばしば中国人が襲われる背景には「パキスタン政府を助けているのは中国人ということで、反中感情がある」と説明した。

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バロチスタン州で2013年7月に行われた地方選挙の投票所で並ぶ女性たち(右側)。黒いアヤバ(アラブ人の伝統衣装)にすっぽり身を包んでいる。(UPI)

 この地域ではしばしば、グワダル港整備や一帯一路関係の工事で現地入りした中国人ワーカーなどがバロチスタン人の襲撃を受け命を落としている。