ドゥテルテ氏の支持に陰り

超法規的殺人に不信強まる

 フィリピンで就任以来、国民の圧倒的な信頼を集めてきたドゥテルテ大統領の支持率に陰りが出始めている。このほど発表された世論調査で、支持率が過去最低になったことが分かった。警官による超法規的殺人疑惑が相次ぎ、与党内からも批判が噴出するなど重要政策である麻薬撲滅戦争が難しい局面を迎えていることが原因だ。特に貧困層で不信が高まっている実態も鮮明となった。
(マニラ・福島純一)

国警、麻薬撲滅戦争から撤退

 民間調査会社「ソーシャル・ウェザー・ステーション」が8日に発表した世論調査で、大統領の実績に「満足」と回答したのは67%で就任以来最低の数値に落ち込んだ。「判断できない」は14%、「不満足」は19%だった。前回6月の調査では「満足は」78%となっており11%の下落となった。また「満足」から「不満足」を差し引いた純満足度は48ポイントで、前回の66ポイントから大幅な下落となり、国民に失望が広がっている実態が明らかとなった。

ドゥテルテ氏

フィリピンのドゥテルテ大統領(AFP 時事)

 階層別では中間層以上の満足度が5ポイントで、前回の57ポイントから2ポイントの減少に留まっているのに対し、貧困層は49ポイントで前回の6ポイントから大幅な下落となった。麻薬撲滅戦争における犠牲者が貧困層に集中していることや、生活の向上を実感できない経済政策などが、貧困層に大きな失望を与えた可能性がある。

 質素な生活など庶民派を強調してきたドゥテルテ大統領だけに、国民の大きな比率を占める貧困層の支持低下は、政権への大きなダメージに繋(つな)がりかねない。今回の調査は全国1500人の成人を対象に9月23日から27日にかけて実施された。

 支持率下落の原因は、ドゥテルテ大統領が推進する麻薬撲滅戦争で警官による超法規的殺人が相次ぎ、国家警察への不信が高まったことだと考えられている。

 同じくソーシャル・ウェザー・ステーションが先月27日に発表した警官の麻薬捜査に関する世論調査では、回答者の54%が「警官が無抵抗の容疑者を殺害しているという見方」に「同意する」と回答。マニラ首都圏では63%に達した。一方「同意しない」との回答は20%に留まった。

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9月21日、マニラ市で行われた集会で、超法規的殺人に反対する横断幕を掲げる参加者
(撮影 福島 純一)

 また、自首した麻薬容疑者への対応に関する世論調査では、回答者の63%が「容疑者が出頭しても警察に殺害されている」と考えていることが分かった。これに「同意しない」との返答は20%と低い数値となっており、警察に対する国民の強い不信は政権の大きな課題となっている。

 国家警察は、今年1月から8月までの犯罪数が、昨年の同時期と比べて約7%減少したと発表し、治安改善を強調している。しかし、麻薬捜査をめぐる死者数をめぐっては、人権団体が1万3000人以上の死者を主張する一方、国家警察は6000人程度と説明するなど、その認識に大きな隔たりがあり、実態はよく分かっていない。

 国家警察への不満は与党内からも噴出している。「ライディング・イン・タンデム」と呼ばれるバイクに2人乗りした容疑者による殺人事件が各地で相次いでいることをめぐり、ピメンテル上院議員は「警察の無能によって犯罪者が大胆になっている」と指摘。麻薬撲滅戦争によって、犯罪が減少していると主張するデラロサ国家警察長官を痛烈に批判した。

 警察への不信が支持率低下を招いたことを問題視したドゥテルテ大統領は、国家警察に麻薬捜査からの撤退を命じ、警察主体で行われてきた麻薬撲滅戦争の失敗を認める結果となった。国家警察は街頭犯罪やテロ対策に集中するという。

 今後、麻薬取り締まりに関しては麻薬取締局が引き継ぐが、警察の力を欠いたことで、難航する麻薬撲滅がさらに停滞に陥る可能性もありそうだ。