権力集中で中国共産党崩壊回避へ  香港政治誌「前哨」の劉編集長に聞く(下)

集団指導に限界、外堀埋める

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インタビューに応える香港月刊政治誌「前哨」の劉達文編集長

 ――中国共産党は11月の第18期中央委員会第3回総会(3中総会)で内外の治安維持を統括する「国家安全委員会」と改革の司令塔となる「中央改革全面深化指導小組」という2組織を立ち上げたが、この新たな2組織をどうみるか。

 3中総会の方針内容が発表された時、新味がないので、有識者たちは皆、失望した。ただ、忘れてはならないことは、9月末、上海で自由貿易区が創設されたことだ。この時点で何か大きな改革を行うのではなく、自由貿易区を設立することで従来の既得権益層、例えば国有企業で占められる中国銀行や中国石油、金融業などを少しずつ市場開放し、改善していく手法を取っている。国有企業の社員数は国務院の各省庁よりも人数が多いので大改革を一気に断行すれば社会的ダメージも大きいので、徐々に変えていく必要がある。

 中国銀行や中国石油などの国有企業を解体するのではなく、自己改革してスリム化し、生き残る道も模索させる。周永康氏や薄煕来氏の政治力を封殺するために側近たちを拘束して手足が出せない手法を取ったように、党指導部としては外堀を埋め、徐々に本丸を改革していく腹積もりだ。すぐに大改革の方針が出されることはないが、5年以内に少しずつ改革を加速していくだろう。

 ――国家安全委員会は治安維持の締め付けを一層強化する組織とみてよいか。

 国家安全委員会が設置されることで政治的な弾圧が強化されることは恐らくないだろう。ただ、国家安全委員会には党中央宣伝部や香港を管理する中国政府の駐香港中央連絡弁公室(中連弁=旧新華社香港支社)が含まれており、香港の民主化すら弾圧されるとの警鐘を鳴らす者もいるが、そうではない。実際は党指導部の指示がトップダウンで末端に行き届かない機能不全組織に陥ってしまっているので、中央の指示が末端まで正確に届いていない状態を改善するのが主要な目的と言える。国家安全委員会の設置を通して上意下達が機能するトップダウン方式に、より近づける組織づくりをするということだ。

 ――国家安全委員会は旧ソ連のKGB(国家保安委員会)に近い組織か、それとも米国のNSC(国家安全保障会議)に近い組織か。テロ分子や極端な宗教分子を取り締まることを理由として強調しているが、実際は、習近平氏に権力を集中するための危機回避策とみてよいか。

 KGBには似ていない。むしろ周永康氏がかつて責任者を務めた、既存の党中央政法委員会に似ている部分が多い。中国内の情報、治安、司法、検察、公安などの部門を主管する党中央政法委員会は党中央規律検査委員会と共同で政府の監察部門を指揮し、党中央軍事委員会と共同で人民武装警察の指揮を執るが、この委員会の政治力が弱まってきた。現在も中国は国家安全部が存続しているので既存組織では改善できない効率的なトップダウン方式を作り上げるのが目的だ。

 胡錦濤政権時代、胡総書記が他の党政治局常務員8人に招集をかけて会議をしても、意見は各政治派閥の背景がそれぞれ違うため、8人それぞれ違っていた。いわば、派閥のバランス政治であり、総書記が強権で全てを引っ張っていく形ではなかった。その実情を踏まえ、総書記に効率的に権力が集中できる仕組みづくりの一歩となっている。中日関係が厳しくなる中、中国に駐在する日本の組織を弾圧する目的などはない。

 ――党主導の下、李克強首相率いる国務院(中央政府)は単なる「経済政策実施機関」に成り下がり、習氏の権力集中が強まったとみてよいか。党指導部内の権力闘争はどうなっているか。

 国務院は単なる政財政策実施機関になる傾向が強まっている。李克強首相の政治力はその分、弱体化していると言ってよい。習総書記としては、古い既存の組織に依存してしまうと江沢民元総書記の影響力が根強く残存しているので総書記が決めたいものも決められない。人事面でも政治局常務委員会には江沢民氏や胡錦濤氏の政治的影響力で選ばれた人が大半なので、総書記一人で重要な政治決断ができない。権力を集中できる新しい組織を立ち上げることで自分の意思を効率的に伝える必要性に迫られている。

 ――江沢民時代から残る権力構造が刷新されないことが問題なのか。

 胡錦濤・温家宝体制の時代は、結局、江沢民氏の院政なので大改革を断行できなかった。原因は第2革命世代の指導者だった”小平氏が天安門事件で急遽、第3革命世代の権力核心として江沢民氏を擁立して認め、第4世代の権力核心は明確にしなかったことにある。胡錦濤氏が江沢民氏の絶大な政治力のために指導者として改革を断行できなかったのは、胡錦濤氏が明確な権力核心として認められていなかったことが大きい。そのため、党最高指導部である政治局常務委員会のメンバーになれば、それぞれの担当に関して各メンバーが決めれば、他のメンバーは強く干渉したり、反対したりできない集団指導体制の構造的な問題があった。

 ――最高指導部である党政治局常務委員会のメンバーたち7人は党崩壊の危機に対する切迫感から従来の集団指導体制では限界があるとの自覚はあるのか。

 実は党外の人々が騒いでいる以上に、党指導部は中国共産党の存亡の危機に直面していることを痛切に自覚している。今回の3中総会の動きはその表れであり、集団指導体制では党の統制に難題が山積して限界があり、崩壊の危機に直面していることを何よりも政治局常務委メンバー一人一人が強く自覚し、もう一度、それぞれの権限、権力を返して、総書記が管理統治を一元化できる権力集中構造へ変革させていく流れに合意しているとみてよい。

(聞き手=深川耕治、写真も)