明確な戦略ない米政権

南シナ海 強まる中国支配 安保専門家に聞く(下)

米ハドソン研究所上級研究員 磯村順二郎氏

今後、南シナ海問題はどう動くと考えるか。

磯村順二郎氏

 いそむら・じゅんじろう 1948年神奈川県生まれ。安倍晋太郎元外相の事務所スタッフなどを経て、92年に磯村国際関係事務所を設立。国際政治や安全保障問題に携わる。2005年より米ハドソン研究所上級研究員。

 中国が既得権益として南シナ海支配を強めていくだろう。中国は太平洋への出口がないから、通り道を作らない限り外に出られない。南シナ海支配はその道を確保することが狙いの一つなので、今後も海洋進出は続くとみるべきだ。今の中国には軍事力があるため、米国といえど簡単に対応できないだろう。

中国の軍拡、海洋進出を止めるのは難しいということか。

 現実として難しくなっている。米政府と中国政府が話し合っても人民解放軍を抑えられるか分からない。

 また、かつては共産主義というイデオロギーで人民をまとめていたが、今や中国共産党の存在理由がない状態になっている。だから(人民をまとめるために)常に拡大路線を取らざるを得ない。

トランプ米政権の対応をどう見る。

 当初は強硬路線だけで行こうとしたが、現実的にそれ一本では難しいことが分かってきた。ただ、これはオバマ前政権から言えることだが、国家としての明確な戦略を持っていないことは問題だ。フィリピンが再び中国に傾斜しているほか、マレーシアやシンガポールも中国を向いている。米国より中国の方がうまく仲間づくりをしており、東南アジア諸国を取り込むのはなかなか難しいだろう。

 また、世界が複雑化しているために、今までのような世界の警察官としての役割も果たせない。しかもトランプ大統領は南シナ海に限らず、中東など世界の紛争や問題にあまり手を突っ込みたくないのが基本スタンスだ。今後、米国は強大な軍事力を背景にした上で、スーパーバイザー的に世界を見ていくことになるだろう。

 ただ、今の政権が落ち着くまでに半年から1年かかるだろうから、対中政策がどうなるかまだ分からない。

アジアの安全保障を地域に任せる方針を取る可能性もあるということか。

 その方向に進むことも予想される。そうさせないために、どう米国を引き留めるか各国が考える必要がある。

トランプ氏は南シナ海問題より貿易赤字の解消を主眼に置いているのか。

 そうだ。トランプ氏は中国が南シナ海を支配しても、直接的な米国への影響は少ないと考えている。ただ貿易赤字は国内経済に直結するから、それを解消したがっている。

中国がトランプ氏の娘婿クシュナー上級顧問に接近していると言われるが、今後の米中関係に影響はあるのか。

 トランプ政権には台湾派もおり、クシュナー氏一人の力で米中関係が動くことはないだろう。

日本は中国の海洋進出にどう対応すべきか。

 同程度の軍事力を示さないと中国は必ず出てくるから、対抗するためには(軍事面で)かなり力を入れる必要がある。中国は今後も空母を建造していくほか、水陸両用飛行艇「AG600」も開発している。これらが配備されると行動範囲は格段に広がる。それにどう対処するのか考えることも必要だ。

(ワシントン・岩城喜之)