南シナ海で強まる中国支配、北危機に隠れ着々基地化
元自衛艦隊司令官 香田洋二氏
昨年7月にオランダ・ハーグの仲裁裁判所が南シナ海における中国の主張を否定した判決を出してから1年。中国海洋進出の現状と日米の課題をアジアの安全保障問題に詳しい専門家に聞いた。(ワシントン・岩城喜之)
この1年で中国の南シナ海支配、海洋進出に変化はあったか。
中国がこれまで通りやりたいことをやっているという意味では変わらない。ファイアリクロス礁やスービ礁、ミスチーフ礁については、実質的に軍事基地化が完成したとみるべきだ。中国にとって良かったのは、北朝鮮の核・ミサイル問題が米国でも大きく取り上げられるようになり、南シナ海の注目度が下がったことだ。既成事実の積み上げを何の妨害もなく着実に進めることができた。
ハーグ判決は中国の行動に影響を与えたのか。
中国は判決を無視すると宣言したが、実際は心理的負荷を相当感じている。だから強い姿勢を示して(判決の内容を)打ち消そうとしている。
これまで米軍が「航行の自由」作戦を実施してきたが、南シナ海の軍事基地化を止められなかった。今後、どのような対応が必要か。
日米と周辺国で協力して、中国がまだ手を付けていないスカボロー礁の埋め立てや軍事基地化をさせないことだ。中国が実際に始めたらどういう手段を取るのかまでしっかり詰めておく必要がある。キューバ危機の際に米国が取ったような海上封鎖という手段もある。米国が本気で封鎖したら中国は武力を使えないだろう。
中国との緊張が高まる可能性があるにもかかわらず、米国はそこまでやるのか。
そこはバランスを考えて行動するだろう。ただ、オバマ前政権のような事なかれ主義で対応したら中国ペースに陥ってしまう。
また、これ以上中国を自由にすれば、世界に対する米国の主張にも説得力がなくなってくる。そうなればロシアは北極海で、ブラジルはブラジル沖で、インドはインド洋で自分たちの好きなようにする可能性があり、世界中の秩序が崩れてしまう。その意味でも南シナ海の問題を軽く見てはいけない。
軍事基地化が進んでしまった今、南シナ海を元に戻すことは可能なのか。
元に戻す必要はない。仮に中国が南シナ海の支配能力を確保したとしても、台湾やフィリピン、ベトナムなどを米国側に取り込めれば、南シナ海の中に中国を閉じ込めておくことができる。そういう体制をつくりながら、南シナ海に米軍が入ってプレゼンスを高めることが必要だ。これを行うには、日米がアジア諸国を巻き込んで新たに安保体制や軍事戦略を構築する必要がある。
今後の焦点は。
中国は少しでも外に出ようとするだろう。特にアフリカに行くときのルートとしてインド洋をコントロールしたがっている。中国の出方としてアジア諸国に金をばらまき、台湾に対して硬軟使い分け、米国との関係を弱体化させる戦略を取ってくるだろう。
日本は米国と同じ「航行の自由」作戦をやる必要はないが、(ヘリコプター搭載型護衛艦)「いずも」ともう1隻を「九段線」の外に展開したような日本版の公海自由利用の確認を続ける必要がある。






