香港返還20年、自由主義潰す中国の介入
香港が英国から中国に返還されて20周年を迎えた。
記念式典に参加するため香港を訪れた中国の習近平国家主席は「一国二制度は成功し、これからも続く」と述べたが、単なるリップサービスにすぎないと冷ややかに見ている人は少なくないはずだ。
広がる「香港人意識」
中国の最高実力者、故鄧小平氏が香港に約束した「一国二制度」は、中国の共産主義と香港の資本主義を併存させるものだ。香港の憲法に当たる「基本法」には、返還後も資本主義を50年間維持し「高度の自治」を認めると規定。私有財産権、言論、集会、信仰、職業選択の自由なども保障するとした。法律も中国のものではなく、英国法制の流れをくむコモン・ロー(自由を重んじる普通法)の下で治められるものとした。
しかし、言論、出版、結社の自由が謳(うた)われている中国の憲法は「空文」でしかない。一国二制度も骨抜きにされるのではないかと香港市民は中国への不信感を募らせる。
香港大学が先月公表した世論調査の結果では、18~29歳の若者のうち、自分を「中国人」と考える人は3・1%だったのに対し、「香港人」だと考える人は93・7%に達した。
背景にあるのは対中幻想の崩壊だ。20年前の返還直後には「祖国・中国」への期待が高まったものの、その後は北京による香港への露骨な政治介入が強まるばかりだ。
とりわけ2014年の「雨傘運動」で中国と香港の亀裂が深まった。これは中国が香港の行政長官選で事実上、親中派しか出馬できない仕組みを押し付けようとしたことに反発した学生らが、2カ月以上にわたって中心部を占拠した運動だ。また、香港の書店関係者や中国の富豪が香港で中国当局に拘束されるなどといった事件が相次ぎ、英国統治時代のレッセフェール(自由放任主義)をベースに発展を遂げた香港の社会資産が侵食されていった。
人口740万人の香港を昨年、中国人観光客4257万人が訪問した。02年の683万人と比べて6倍だ。自由貿易港・香港は消費税もかからず、買い物は本土より安く済む。中国人海外観光の人気スポットだ。
ただ、本土の富裕層による過剰な不動産投資はマンション価格をつり上げ、一般庶民には手の届かないものになっている。また本土出身の大学生がそのまま香港で就職し、地元の若者の就職難をも呼び込んでいる。
大学に入っても就職できるかどうか不安で、就職できてもマンションすら買えない現実に、苛(いら)立ちを募らせる若者たちは少なくない。
懸念される反中勢力排除
気掛かりなのが、国家安全条例制定に向けた動きだ。国家分裂行為を禁じる条例で、基本法がその制定を義務付けている。
習氏が同条例制定を1日に就任する林鄭月娥行政長官に命じるかどうかが注目される。この条例は、香港独立派のみならず自決派(独立と一線を画し「民主自決」を求める)までも含めた勢力の完全排除が主眼となる。中国の介入が一層強まることが懸念される。