上海協力機構、同床異夢の中露に楔打ち込め


 中国、ロシア、中央アジア4カ国でつくる「上海協力機構(SCO)」の首脳会議が、カザフスタンの首都アスタナで開催され、インドとパキスタンの正式加盟を承認した。

 SCOが加盟国を増やすのは初めてだが、来年以降、イランやトルコの加盟問題も議論される見込みだ。

印パ両国が正式加盟

 印パ加盟でSCOは国内総生産(GDP)で世界の2割、人口で4割を占めることになる。南アジアを含めることで欧州以外のユーラシア大陸をカバーする勢いだ。懸念されるのは「反テロリズム」の協力体制構築の背後に、反米勢力の拡大という野心が隠されていることだ。

 かつてSCOは、米国のオブザーバー加盟を拒否しただけでなく、アフガニスタンのカルザイ政権が「米国の傀儡(かいらい)」であることを理由に加盟申請を却下した。さらに中央アジアの駐留米軍撤退を促すなど、反米路線を鮮明にした経緯がある。

 ただSCOの主要国中露は必ずしも一枚岩ではない。むしろ実態は同床異夢の関係だ。

 ロシアは、原子力発電所や武器の輸出先でもあるインドがSCO加盟を果たす上で後ろ盾となった。中国がGDPで世界2位の経済力を背景にロシアの「裏庭」とも言える中央アジアで影響力を拡大していることに不満を持っており、インドをSCOに引き込んだのも中国を牽制(けんせい)するためというのが本音だ。

 1962年に勃発した中印国境紛争などの影響で、インドも中国への警戒心は強い。中国はインド洋でシーレーン(海上交通路)確保のため、インドを囲む形で港湾や空港の整備を支援する「真珠の首飾り戦略」を展開している。インドがロシアに接近するのは、中国への懸念を抱いているためだ。

 こうしたロシアとインドに対抗するため、中国は友好国のパキスタンを引き入れた。中国主導のシルクロード経済圏構想「一帯一路」の旗艦事業として、中国はパキスタンで中パ経済回廊の建設を進めているが、これもインドの反発を招いた。

 英国の地政学者マッキンダーは「ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制す」と主張した。「世界島」とはユーラシア大陸とアフリカ大陸からなり、マッキンダーは中央アジアを地政学的核心地域「ハートランド」として注目した。

 19世紀後半、このハートランドをめぐる英国とロシアの覇権抗争「グレートゲーム」があった。現在も「21世紀のグレートゲーム」が始まっている。

日本は関係構築模索を

 一方、中国は沖縄県・尖閣諸島の領有権を一方的に主張し、中国公船が尖閣周辺で領海侵入を繰り返している。ロシアも日本固有の領土である北方領土の不法占拠を続けるだけでなく、重要な軍事拠点と位置付けて軍備増強を進めている。両国には米国の同盟国である日本に圧力を強める思惑もあろう。

 わが国には、中露の間に楔(くさび)を打ち込むような戦略的外交が求められる。さらに欧米と連携しつつ、中露や他のSCO加盟国などとの独自の関係構築を模索していく必要もあろう。