「一帯一路」会議、中国の野心に振り回されるな
中国の習近平国家主席が提唱したユーラシア経済圏構想「一帯一路」に関する国際会議が、北京で開催された。会議にはロシアのプーチン大統領ら30カ国の首脳級を含め、100カ国以上の代表が参加。日本からは自民党幹事長や経団連会長らが出席した。
しかし華々しく開催された会議は、同時に関係国間の亀裂をも鮮明にした。
インドは参加要請を拒否
インドは会議の参加要請を拒否。パキスタンと領有権を争うカシミールを通る「中パ経済回廊」に中国は5兆円もの資金を投入する。一帯一路の目玉にもなっていることに対し、インドは国益に反するものとの懸念を強めている。
インドは一帯一路の資金供給源でもあるアジアインフラ投資銀行(AIIB)の加盟国でもあるが、自国の領土問題に関わる中国の覇権主義的手法に反発したのだ。無論、中国が管理運営権を掌握しているパキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港、ミャンマーのチャオピュー港など、インドを取り囲む「真珠の首飾り」と呼ばれる港湾の軍事基地化への懸念もある。
中国の東の隣国・北朝鮮は、代表団こそ送り込んだものの、会議開催初日に弾道ミサイルを発射して冷や水を浴びせた。卓上では握手しながら、下では相手の足を蹴飛ばすような中国と北朝鮮との間の溝の深さを感じさせる。
既に始まっている一帯一路プロジェクトも、スリランカのコロンボ沖合人工島やインドネシア高速鉄道の建設遅延など、さまざまなごたごたが発生している。要は大風呂敷を広げはするが、たたむことができない中国の国民性に根差した矛盾が露呈しているのだ。
国際会議を開催した習氏の狙いは三つある。一つは、今秋、5年に一度開催される共産党大会への布石とすることだ。同大会を前に人事をめぐる確執は、夏の北戴河会議まで続く。習氏としては、その最後の山場を乗り切って地歩を固めたいとの思惑がある。北京で国際会議を成功に導くことで、国際的信任を得ていると長老にもアピールできる。
そして高速道路や鉄道といったインフラ需要をつくり出し、国有企業が過剰に生産した鉄やセメントなどのはけ口とする考えがある。冷え込んだ国内経済の浮揚を図るとともに、ダンピング問題などでの国際社会からの批判もかわせる。
さらに、軍事技術に転用できる先進国のハイテクを取り込むことだ。イノベーション力に乏しい中国は、これまで企業の買収やサイバー戦、スパイ活動などで西側の高度技術を得て軍事転用してきた経緯がある。とりわけイスラエルやドイツの技術は垂涎の的だ。新シルクロードの美名の下に、飛躍的な軍事力増強を可能にする技術取得に余念がない。
日米は一定の距離を
一方、日米は一帯一路に一定の距離を置いているが、そのポジションを変えないことが肝要だ。100年マラソンを走る中国の野心に振り回されてはならない。