米中関係で中国人研究者講演

「米中は米ソと違う」張沱生氏
「国際関係民主化を」王絹思氏

 「トランプ新政権と米中関係の行方」をテーマに先月24日、都内の笹川平和財団ビルで中国を代表する米国研究者の王絹思氏と張沱生氏の講演会が開催された。主催したのは笹川平和財団と北京大学国際戦略研究院。張氏は「米中関係は経済関係のなかった米ソ関係とは違う」とし、「軍事的衝突のリスクが高くなるものの戦争状態にまでは至らない」と予測した。これに対し日本側からは「米中は戦略的競争関係に入っていないというが、それは中国の見方であって、周りにはそうは見えず、グローバルな競争関係が生まれつつある」との指摘があった。
(池永達夫・写真も)

中国の一方的見方と批判も

 まず登壇したのは中国人民解放軍に所属し現在、中国国際戦略基金会学術委員会主任を務めている張沱生氏。張氏は「クリントン政権が誕生していれば、米国の対中政策はオバマ政権と変わらなかっただろう。だがトランプ政権が誕生したことで、米中で意見の対立が起こり、軍事的衝突のリスクが高くなるものの戦争状態にまで至ることはないだろう」と予測した。

張沱生

張沱生・中国国際戦略基金会学術委員会主任

 張氏は理由として「経済関係がなかった米ソとは違う」と述べた上で「米中は経済的パートナーであると同時に対テロや環境保護問題で連携している」とし、鉄のカーテンで仕切られた米ソ関係ではなく、相互依存関係にある米中の立場を強調した。

 また張氏は「中国は米国と衝突せず、対抗せずの姿勢を維持する」ことで、両国で意見の対立があったとしても「制御可能な状態を保つ」ことは可能だと指摘した。

 さらに張氏は北朝鮮問題に触れ、「北の核兵器能力が臨界点に近くなっている。1、2年で米到着のミサイル開発もありうる」とし「トランプ政権最初の挑戦になる」との認識を示した。また足踏み状態の6者会談について、「中国が責任を果たしていないのが問題だ」との自省ともとれる発言があった。

于鉄軍

于鉄軍・北京大学国際戦略研究院副委員長

 なお王絹思氏は急病で緊急入院したため、王氏の一番弟子である于鉄軍・北京大学国際戦略研究院副委員長が発表予定だった王論文を代読した。

 王絹思氏は、中国を代表するトップクラスの米国研究者として知られ、中国の国家戦略として太平洋進出による米中対立を回避し、「一帯一路」構想によるユーラシア経済圏強化を提唱した人物として知られる。現在は、北京大学国際戦略研究院院長、中国社会科学院アメリカ研究所所長および中国共産党中央党校国際戦略研究所所長を兼任している。

 于氏が代読した王論文では「中国人は誰もトランプ大統領が誕生するとは思っていなかった」と率直に予想が外れたことを吐露した上で「米中相互不信の一因は、米国が中国共産党主導の国内秩序に反発して中国の民主化を主張する一方、中国は国際関係の民主化を主張している」と指摘した。中国が主張する「国際関係の民主化」とは、欧米が主導する国際秩序に対する中国の介入を意味すると思われるが詳細は触れなかった。

 またトランプ大統領の中国の対米貿易黒字に対する圧力に関し、王論文は「米の経済を刺激するのが目的で、中国攻撃が目的ではない」との認識を示し、「雇用や投資を増やしたい米国とは、駆け引きの余地はあり、中国側の準備はできている」とした。

 なお、コメンテーター役の加藤洋一・日本再建イニシアティブ研究主幹は北朝鮮問題に関し「金正男暗殺で北朝鮮は中国の目を突き、中国のコントロールを拒否した」と述べ「中国に頼らない解決策が必要」との認識を示した。

 また加藤氏は「米中は戦略的競争関係に入っていないというが、それは中国の見方であって、周りにはそうは見えず、グローバルな競争関係が生まれつつある」と総括した。とりわけ加藤氏はサイバー問題に言及し「サイバー問題は、2016年に落ち着いたというが、事態は急激に悪化している。自衛隊も、電子戦で中国に負けているし、世界レベルでもサイバー問題で対立は深まる趨勢(すうせい)にある」と強調した。