侵略・虐殺の史実に中国の本質

チベット亡命政権主席大臣が強調

 日本を訪問したチベット亡命政権のロブサン・センゲ主席大臣が、このほど東京グランドホテルで講演した後、記者会見した。センゲ氏は、「チベットを理解すれば、中国の本質が分かる」と強調。独立国家だったチベットに侵攻し併合した中国のやり方を学べば、一国二制度を反故(ほご)にされつつある香港の実情や「一つの中国」論で取り込まれようとしている台湾、さらに南シナ海の軍事拠点化など中国の戦略は鮮明に見えてくると示唆する。(池永達夫)

アジアの水源独占にも警鐘
世界ウイグル会議総裁、反テロ法の偽善告発

 まず、あいさつに立った世界ウイグル会議総裁のラビア・カーディル氏は、昨年1月に中国で施行された「反テロ法」がウイグル民族弾圧の口実にされている実態に警鐘を鳴らした。

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ロブサン・センゲ・チベット亡命政権主席大臣

 カーディル氏は「中国は反テロ法に基づき、ウイグルの若者を公開裁判にさらし処刑している。投獄されているウイグル人の数は、数千という単位ではなく、数万に達している」とし、ウイグルで虐殺、弾圧が反テロ法という美名の下で断行されていることに抗議した。

 またカーディル氏は、中国が国際社会の目を気にせず、3カ月間で数千ものモスクを破壊するなど、ウイグルの伝統と文化が抹殺されている現状を訴えた。

 一方、チベット亡命政権のロブサン・センゲ主席大臣は持論の水問題に触れ、「チベットは氷の貯蔵庫として南極、北極に次ぐ第3の極だ。インダスもガンジスも、さらにメコン、イラワジ、黄河、揚子江も源流はチベットにある。何世紀にもわたってこれらの水は共有されてきたが、中国は全てを欲しがっている」と述べ、中国全人口の約3分の1に匹敵する4億人の人々が水不足に遭遇している中、これらの河川を全て中国側に流れるようにすることも可能だと警告。オイル戦争の次に来るのは、「ホワイトゴールド」と呼ばれる水をめぐる戦争になる可能性を指摘した。

 さらにセンゲ氏は、中国人の仏教徒が増え、インド北部のダラムサラで開かれるダライ・ラマ法王の法話会にも参加する中国人仏教徒が増加していることに触れ、「非暴力や慈悲といった仏教哲学の助けを借りて、中国に変化がもたらされることを願っている」と語った。

 そしてセンゲ氏は、中国共産党政権が次期ダライ・ラマを認定しようとしていることに関し、「悪魔だと言ってダライ・ラマ法王を非難してきたのが中国だ。それでも法王認定を中国共産党がやるという。それはキューバのカストロが次期ローマ法王を認定するようなものだ」と批判。「もし仕事を終えないまま死ぬならば、輪廻(りんね)転生は残された仕事がある亡命地で起きる。なぜ中国で生まれ変わることがあるのか。共産党に決める権利はない」と断じた。

 とりわけセンゲ氏が強調したのが、「チベットを理解すれば、中国の本質が分かる」ということだった。

 チベットは中国から侵攻されるまで独立国家だった。中国政府は、チベット併合後、一貫して、独立運動・亡命政府を「分離主義」として非難し、侵攻や併合および虐殺その他を正当化してきた経緯がある。

 ダライ・ラマ13世が死去する前年の1932年に書かれた遺言がある。

 「このチベットの中心で、この国の宗教が、この国の政治が、内から外から脅威に晒(さら)されるであろう。われらがわれら自身の手によって、この国を守らんと決意せよ。(中略)僧侶は命を奪われ、僧院はことごとく破壊されるであろう。法の掟(おきて)はその威力を失うであろう。土地も財産も、政府管理に属するもの全て没収されるであろう。生きとし生けるもの皆底無しの苦界に沈む」

 自らの手で自国を守り抜く覚悟を説いたラマ13世の遺言は、チベット人だけではなく人類が共有する教訓でもある。

 ドイツの名宰相であるオットー・ビスマルクは「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と説いた。

 その意味では東アジアの安全保障にとって、中国の「嘘(うそ)と暴力」の歴史にしっかり目を向けることこそが重要となる。