南アジアで好評の韓国製冷蔵庫

 韓国サムスン電子はスマホのギャラクシーのバッテリー発火で、ブランド力を落としたが、南アジアの白物家電市場ではなかなか健闘している現実がある。とりわけ停電用バッテリーが付き、鍵の掛かる冷蔵庫とクリケットの結果を画面隅に表示する機能があるテレビが好評を博している。(池永達夫)

鍵付き、停電にも対応
現地調査・研究で日本製と明暗

 むしろこの白物家電で、足が地に着いていないのが日本メーカーだ。

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シンプルながら需要の高い鍵付き冷蔵庫

 冷蔵庫というと暑いインドやバングラデシュでは中産階級にとって生活必需品だ。だが日立やパナソニック、東芝など日本のメジャーメーカーのものは全然と言っていいほど売れていない。

 メーカー側からすれば先進国限定販売という戦略もある。それはそれでブランド力を高める一手法だ。川の上流を制すれば、中下流は時間の問題だからという発想だ。

 だが、日本メーカーが欧米市場をまず取って、それからアジアやアフリカといったマーケットを取ろうとしているわけではない。日々、巨大マーケットの中国やインドでいかに売るか頭を悩ませている。

 日本企業の研究開発費総額は、世界で3本の指に入る基準だ。だが、そのうち約6割が需要に貢献できないまま雲散霧消している。

 南アジアで販売が伸びない最大の理由は、市場調査不足に尽きる。日本製品は高価格でも、高品質で壊れないのが強みだ。野菜の鮮度を保ち、除菌機能まで付いている高性能、高品質なものを作れば売れるはずだというドグマの落とし穴にはまっている。

 しかし、市場の現場では「需要と供給」がかみ合わないと、販売は伸びない。この基本的なところで、日本製品は足払いを食らっている。

 設計者はインドやバングラデシュに行くこともなく、日本の本社で設計している。

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現場の事情が分からないまま、研究者の山勘で新製品のアイデアをひねり出し、設計図に線を引いても、売れるわけがない。

 その点、鍵が掛かり、停電用バッテリーが付いているサムスンの冷蔵庫は、南アジアの市場を現場で研究した賜物(たまもの)だ。

 インドやバングラデシュではハイクラスになると、大体、家事掃除はメイドの仕事だ。また泥棒が多い。鍵は、メイドのつまみ食いと、こそ泥よけに効果を発揮する。日本にいれば、泥棒が金目の物を盗まずに、冷蔵庫の物をあさるというのはジョークとしか思わないだろう。だが現地では、玄関の靴を盗む泥棒やドアのノブを持ち帰る類いの泥棒は決して珍しくない。また、薬を冷蔵庫に入れるので、子供が誤飲しないためというのもある。

 さらにこれらの地域では毎日のように停電する。すると中の物が腐るから、2~3時間の停電なら耐えられるように、バッテリーも付いている。

 こうしたことは、インドで生活しないと分からない。

 これらはおまけというわけではなく、必要不可欠な付属品だ。そうした工夫があり、しかも日本製品の半額だ。

 サムスンは専任マーケッターを世界に赴任させている。

 例えばインド駐在の専任マーケッターは、現地語をしゃべり、インド人の食べる物を食し、インド人の友達となって、インド人がいったいどのような嗜好(しこう)を持つのかを学ぶ。1年間はこれがメインの仕事だ。

 2年目から、やっと具体的な製品調査に入るとされるが、こうした地に足の着いた現場感覚こそが重要だ。

 何より彼らの双肩に懸かるミッションは重い。会社の未来は、彼らに懸かっているといってもいい。だから専任マーケッターはよりすぐりの人材を投入する。日本で考えられる単なる市場統計を行うのではなく、世界的潮流や地域の市場動向を予測し、新たな市場を創造していくセンスも要求される。

 事は冷蔵庫だけにとどまらない。日本の「お家芸」だったはずのテレビでも、確実に日本メーカーの凋落(ちょうらく)は始まっている。