トランプ政権警戒する中国

蔡総統との電話に衝撃
日露の関係進展にも焦燥感

 2016年はプーチンロシア大統領とトランプ次期アメリカ大統領が世界の注目を浴びた年でもあった。プーチン大統領はアメリカのフォーブズ誌で4年連続世界で第1位の最も影響力のある人物として選ばれている。次期大統領であるにもかかわらず第2位の最もパワフルな人物にはトランプ氏が登場している。2人とも個性が強く頑固な印象を与えている部分は共通している。世界にとってドナルド・トランプ氏がアメリカの第45代大統領に選出されたことで、どのような影響があるか百パーセント予測することは不可能だが、少なくとも既に彼の選出で世界が激震したことは事実である。個人的には次期大統領に選出されてからの言動つまり閣僚などの人選や、まめなツイッターで世界に発信する無計画のようで極めて戦術的な発言を見る限り、期待できるように思う。

 トランプ次期大統領と台湾の蔡総統の首脳同士の電話会談は、世界的に注目され中国をびびらせた。中国政府は一方的に電話をした台湾側が悪いという表現で自分たちの不安を隠そうとしているようだが、次期大統領と一国の現職の元首との間の電話を偶発的無計画に行うことはあり得ない。トランプ次期大統領の周辺の人々も事前に打ち合わせたことを認めている。

 中国政府はできるだけこの出来事を重要視しない姿勢を保ちつつ、一方では共産党の機関誌などを通して怒りをあらわにしている。米中関係の悪化、特に貿易に影響し台湾に関しては中国の政策次第で現在国交を持つ国々に働き掛けて、国交を断絶させる方向に政策を転換することも有り得ることや、もしこれを機に台湾が独立でも宣言すれば、中国は軍事的に介入するというように脅かしている。

 しかし、アメリカへの投資をやめて貿易を政治の駆け引きとして中国が使おうとしても、それは決してアメリカだけが困るものではなく、中国自らが諸刃(もろは)の剣を使うことになる。今の中国の国内経済を冷静に見れば中国はそのような強気の姿勢で臨めるほど経済的に良い環境には無い。またバチカンなどと国交を積極的に結び、現在台湾と国交のある国々との国交を断絶させるといっても、台湾はもちろん、アメリカや日本も腕を組んで見物するはずも無く、中国はそのような脅かしで他の国々の信頼を失うことになろう。当然トランプ氏は遊説中も中国との貿易の不均等さについて触れ、報復関税を促している。

 中国専門家の相馬勝氏によると「習近平主席は11月にトランプ次期大統領にお祝いの電報を送り、その中で『あなたと一緒に、衝突せず、対抗せず、相互尊重の原則を堅持するように努力したい』」と表明。さらに相馬氏は「わざわざ『衝突せず、対抗せず』と断った上で『相互尊重の原則の堅持』を呼び掛けたところに1月に発足するトランプ新政権の対中姿勢に強い懸念を抱いていると見て取られる」としている。私も同感で今中国がトランプ次期政権への対応で困惑している様子が見える。トランプ氏は中国に対する一国政策にとらわれず中国の対応に従来の政策の見直しもあり得るとほのめかしている。実際大統領に就任してからどのような政策を採るかは別として、少なくともこの数週間中国政府に対して台湾問題を含め、今までのようにアメリカを甘く見てはいけないというメッセージはしっかり伝えているように思う。

 中国の習近平主席は10年にロシアに対し韓国、中国と手を組んで、日本に対して領土問題に関してタッグを組むことを提案したらしい。しかしプーチン大統領の言動を見ると中国の誘いには軽々しく乗っていないように見受けられる。

 今回のプーチン大統領の日本訪問は、領土問題、平和友好条約などに対して過剰な期待を掛けた人々にとって百パーセント納得とはいかない成果であったかもしれない。しかし私はプーチン大統領と安倍首相は両国に領土問題の存在を前提に前向きな話をしたことや、少なくともオバマ政権を中心として西側がロシアを中国側に寄せたのに対して、安倍政権はアメリカの同盟国としての姿勢を保ちつつ自国とアジアの平和と安定のためにロシアを中国から切り離すことに成功したように思う。それは何よりもプーチン大統領の訪日に対し、中国の政府や党関係の行動がそれを物語っている。中国の上品な言い方としては「二国間の関係促進によって他の国との関係を損なうようなことはあってはならない」とする部分がまさに中国の焦燥を表している。

 今年もこの2人の大統領と習近平国家主席、そして東奔西走する安倍首相の活躍に注目し、アジアにとって安定と繁栄の年につながることを祈願している。習近平主席にとってはトランプ次期大統領と台湾総統との電話会談同様、メンツをつぶされた出来事として、モンゴル国が中国政府の強い圧力にもめげず主権国家としての立場を貫き、ダライ・ラマ法王の訪問を受け入れたことがある。その結果中国はモンゴルに対しての経済援助を凍結しているが、この制裁はやがて自国に対する損害になることを知るべきである。