ガムを噛み習近平氏に臨んだドゥテルテ大統領に注目した「新報道」
◆反米的な発言を連発
先週日曜(23日)の報道・討論番組はNHK「日曜討論」が米大統領選挙、フジテレビ「新報道2001」がフィリピンのドゥテルテ大統領の中国訪問、TBS「サンデーモーニング」が過激派組織「イスラム国」(IS)が支配しているモスルの奪還作戦など主に海外の時事問題を扱っていた。
ISの出現、不動産王のトランプ氏が共和党候補になった米大統領選など不可解に見える現象に事欠かない国際社会の中で、近頃の注目株はドゥテルテ大統領である。暴言の連発で「フィリピンのトランプ氏」の異名を持つが、こちらは既に大統領であり、6月末に就任した直後の支持率は9割以上だった。
公約の麻薬撲滅では手段を選ばぬ摘発に伴う射殺事件が頻発し、暴言も大統領の発言として耳目を集めながらエスカレートしている。
特に過激な取り締まりに人権問題を持ち出そうとしたオバマ米大統領を罵(ののし)り、首脳会談を拒否されてから反米感情が堰(せき)を切ったように言葉となって出ている。
20日も訪問先の中国で「軍事面でも経済面でも米国と決別することを発表する」と発言。シーレーンの要衝である南シナ海問題に関わるだけに、「新報道」がドゥテルテ大統領に焦点を当てたのも頷(うなず)けることだった。
◆大物の大統領を演出
が、番組は暴言よりも先にドゥテルテ大統領の態度から入った。このあたりは映像メディアの得意技で、中比首脳会談でズボンのポケットに両手を突っ込みながら歩き、習近平主席の隣に座りながらもぐもぐと口の中に何やら噛(か)んでいる様子をフォーカスした。
口の中のものは何かを突き止めるため、映像は調印式での調印と首脳同士の握手の直前の様子を追い、側近が調印文書をドゥテルテ大統領に手渡す際に何かを渡し、大統領は文書で顔を隠して包み紙を側近に渡す瞬間を捕らえた。チューイングガムを噛んでいたことにほぼ間違いないということだ。
番組のナレーションは「習近平氏は気付いたようだが何事もなかったように大人の対応」だったと述べたが、ガムを噛んで握手するドゥテルテ氏に苦笑しているようにも見えた。
南シナ海をめぐる国際仲裁裁判所の判決を「紙くず」にしたい中国に、「紙切れ」と応じて棚上げすることで、中国から2兆5000億円もの経済援助をドゥテルテ氏は引き出した。まさにフィリピンの外交価値が跳ね上がった判決バブルである。
番組はガムを噛んだドゥテルテ大統領の狙い、人物評をめぐらせた。東南アジア情勢専門の獨協大学教授・竹田いさみ氏は「庶民を演じるが頭の中は相当のエリート」と評し、「俺は大物の大統領だとフィリピン国民に見せたい。大国を相手にして見栄を張る。ガムを噛んでペコペコしない姿が痛快なわけだ」と、その“流儀”を説明した。
元外交官でキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦氏は、「ホストの面子を潰(つぶ)すようなことをよくやったなと思う」と、まずは驚きの感想。「この人は反米でナショナリストでポピュリスト。米国には文句が言いたいことがいっぱいあるが、中国に対しても今回はあまりハッピーではなかったのかも知れない」と、礼節を欠いた態度の背景を推し量った。
◆深い日比関係を築け
こうなると気になるのは訪日時の態度である。スタジオからは天皇陛下との会見時の態度を不安視する声も上がった。結果として三笠宮殿下が薨去(こうきょ)され中止になったが、安倍晋三首相との日比首脳会談でガムを噛んだという報道はなく、杞憂(きゆう)だったのかも知れない。市販価格100円程度の予算で中国と日本に対する差を見せつけたと言うことか。
番組でもドゥテルテ氏と20年来の交友関係を持つ僧侶の方が「金太郎飴(あめ)みたいにどこを切っても親日家」と証言していたが、日本に対してはとても友好的だ。同じ太平洋に浮かぶ島国であり、中国、米国という巨大な大陸国の狭間に位置し、南シナ海問題でも「われわれは日本の側に立つ」と述べていた。
オバマ大統領の人権外交で咎(とが)めるアプローチは中国の思うつぼだ。訪日時、「来月も招いてほしい」と親近感を寄せたドゥテルテ氏に日本に対する暴言はない。より深い両国関係を築きながら、南シナ海問題で法の支配の重要性確認をはじめとした日比首脳会談での合意内容に着実な成果を期待したい。
(窪田伸雄)