楽観できない習近平軍事改革
見えてきた党軍間の軋轢
習氏「依然、非常に困難」と吐露
習近平政権になって34回目になる党中央政治局の集団学習が去る7月28日に開催された事実とその様子を伝える新華社電が『月刊・中国情勢』(中国通信社、9月号)に転載された。「集団学習」は、2002年からほぼ定期的に開催される政治局委員の勉強会で、専門家からブリーフを受けるとともにトップの意向を確認・共有する狙いで続けられている。習近平政権下でも約2カ月に1回の割で開催されており、そこでの発言から習主席の考え方の方向性や重点を探ることができる。
今次の集団学習では、「国防・軍隊改革深化(軍改革深化)」がテーマで、習主席から「軍改革深化」は第18回党大会以降、党中央は非常に重視し、全面的な小康社会実現と中華民族の偉大な復興につながる戦略目標に位置付けられたことが強調された。
習近平主導の軍改革深化は本欄で既報(16年2月16日付)のように、昨年11月の軍委改革工作会議で決められ、その主旨は伝統的な「党が鉄砲を指揮する」原則の確立と新しい情報戦条件下の戦争で勝利できる統合軍の建設と作戦運用を追求する指揮体制作りに要約できるものであった。その核心は「軍委管総、戦区主戦、軍種主建(中央軍事委員会が軍の全てを管理・監督し、戦区が統合軍の作戦を指揮し、各軍種司令部は軍種部隊を統合戦ができるよう建設・整備する)」のキーワードに要約されていた。
これら軍改革深化は、13年の第3回中央委員全体会議での重点の一つとされ、新編された軍改革深化領導小組が担当して進められた。そして改革案は、政治局常務委員会の承認を得て、骨格的な各軍種部隊や司令機構の新編、5戦区に改編などの大規模な組織改編が進められた。このように大規模な組織改編は実質約1カ月間に一気呵成(かせい)に断行されたが、短い時間に断行されたことに不自然ささえ感じられていた。
習主席は集団学習で「我々は陸軍領導機関およびロケット軍や戦略支援部隊を設置し、軍委の機関を4総部から1庁、6部、3委員会、5直属機関の15職能部門に解体的に改め、7大軍区を東部、南部、西部、北部、中部の大戦区に改編し、海軍、空軍、武装警察部隊機関の再編を果たした」と成果を誇示した。同時に大改革により「解放軍の総部体制、大軍区体制、大陸軍体制を打破し、……長年解決が望まれながらずっと解決できなかった幾つかの問題を解決し、軍隊組織の歴史的枠組みの変革を実現した」と穏やかでない述べ方をしており、組織改革は軍部の抵抗を排して、強い決意で進められたことがうかがわれた。しかし詳細な軍改革は依然として不透明であったが、その具体的な改革と内在する課題などが集団学習での習主席の発言などににじみ出てきた。
まず習主席から軍改革深化の狙いとして、中国の国際地位にふさわしく、国家の安全と発展利益に合致した強固な国防と強大な軍隊を構築し、「二つの百年」という努力目標と中華民族の偉大なる「中国の夢」の実現に強い保証を提供する狙いが強調された。続いて各軍の改革目標として陸軍の情報化、海軍の近海防御を越えた遠海化、空軍の宇宙を視野に入れた航天化と攻防兼備の防空軍化、統合作戦の指揮運用の機能強化、なども表明されている。また20年までに統合作戦指揮体制の改革、規模・構造の最適化などにより情報化戦争に勝利すると目標や時期も明示されていた。
しかし「改革深化の勢いは良好」と評しながら「後続任務は依然、非常に困難で重い」との認識も示しており、課題の多い改革実行に当たっては、「軍隊各級党委員会は重大な政治責任を担う、高級幹部は先頭に立って改革を実行する、それが党への忠誠である」とまで檄(げき)を飛ばしていた。
先に見た「大軍区体制や大陸軍体制を打破」が困難を伴う改革とされたが、陸軍に関しては集団学習に先立ち習主席は中央軍委の副主席、全委員を帯同して陸軍第1回党大会を視察している(前掲誌)。習主席は訓示で「陸軍改革はタイプ転換・建設」と反復し求めたが、その意味や具体的な実態を訓示の文脈から探れば「情報化時代の陸軍建設、機動作戦・立体攻防の戦略的要求に従い、実戦レベルを高める」が狙いで、改革目標には「立体突撃、迅速反応、遠距離機動、特殊作戦、拠点奪取、戦略的強襲などの改革で全軍の作戦に対する陸軍の寄与度を高めること」などと読み取れる。
さらに陸軍改革の手順では「強軍目標に向け、政治工作による軍改革・強化、法に基づく軍統治」と党の政治工作と遵法(じゅんぽう)が強調されていた。特に「法制度の権威と執行力を強め、法治を堅持し、法治の軌道に沿って推進する」と当然のことが習主席からことさらに強調されているが、その裏にこれまでは遵法とは逆の実態があったことを類推させ、過激な「陸軍体制の打破」の必要性が納得させられる。
これらから軍改革深化は、これまで党軍関係にリスクを負いながらも大胆な機構改革を進めてきたが、仏に魂を入れる実戦力強化の段階に進めば、そこにも多くの課題が残っていることを集団学習は示唆している。集団学習の場で習主席は今後の軍改革深化は「依然、非常に困難」と吐露しているが、20年までに習主席は改革を達成できるのか、楽観は許されないのみならず激化する党軍間の軋轢(あつれき)を注視していく必要がある。
(かやはら・いくお)






