ブラッド・グロッサーマン氏、日韓米関係強化が重要に

「安保法制と日米同盟」フォーラム開く

 「安保法制と日米同盟」フォーラム(東京財団主催)がこのほど、都内の日本財団ビルで行われた。副題は「東アジア地域の安全保障を考える」。スピーカーは米国からパシフィックフォーラムCSIS(戦略国際問題研究所)理事のブラッド・グロッサーマン氏、日本から元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏、中国から南京大学中国中南海研究協同創新センター主任の朱鋒氏、韓国から成均館大学校政治外交学科教授の金泰孝氏の4氏。モデレーターは東京財団政策研究ディレクターの渡部恒雄氏が務めた。
(池永達夫、写真も)

世界でパワーシフト―朱鋒氏

リーダーは未来志向で―金泰孝氏

ジーソミア締結望む―香田洋二氏

 同フォーラムで最初に口火を切った米パシフィックフォーラムCSIS理事のブラッド・グロッサーマン氏は「北朝鮮の核プログラムという伝統的脅威に加え、台頭する中国が新しい能力を獲得し、戦後秩序を変えようとすればパートナーではなく脅威になる」と脅威認識を語った上で、「世界3番目の経済大国である日本は、地域の安全保障を担保する能力はある。ただ日米に資源的制約要因がある中、分業体制を構築することで日米同盟を『公共財』として生かす道がある」と指摘した。

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東京財団が主催した「安保法制と日米同盟」フォーラム。右からブラッド・グロッサーマン氏、朱鋒氏、金泰孝氏、香田洋二氏

 また、グロッサーマン氏は、日韓には似ているところより分断の溝が深かったりするが、韓国を組み入れる重要性に言及し、米国とすれば米日、米韓の2カ国間の関係強化とともに日韓米のマルチの関係を深めていくことが肝要になると総括した。

 中国の南京大学中国中南海研究協同創新センター主任の朱鋒氏は「(日韓米の専門家と一緒の)このプロジェクトに参加するのは、尻に火が付いている気がする」と中国がターゲットになる議論に加わる居心地の悪さを率直に語った上で、「世界のメーンプレーヤーが変わるパワーシフトが起きつつある。米国の立場が揺らぎ始め、中国が台頭している。こうした中で、日米同盟が強化されるというのは、自然な流れだ」との認識を示した。

 また、朱氏は「ルールをどう決めていくのか、中国の核心的利益は何なのか。相互尊重の立場で受け入れていく必要があるが、中国は力の乱用を避け、現実的になっていかないといけない。慎重で注意深い議論が必要だ」と述べた。

 韓国の成均館大学教授の金泰孝氏は、「国民はナショナリストで感情で動くものだ。国家のトップこそが勇気を持って未来志向の協力関係構築と将来のコンセンサスを目指して努力すべきだ」と述べ、ナショナリズムに引き回されないリーダーのありようを主張した。金氏は李明博前政権時代、青瓦台で対外戦略企画官を務めていたが現在、成均館大学で政治外交学科教授を務めている。

 元海上自衛隊自衛艦隊司令官の香田洋二氏は、「NATO(北大西洋条約機構)加盟国には個別的自衛権はなく、全て集団的自衛権で動く。今回、日本も必要に応じて米軍を支援できるようになった。ただ同盟は生き物であり、機能している日米同盟をさらに活性化させる努力を怠ってはならない」と述べ、「南シナ海では自衛隊は米軍をフルサポートする必要があるが、朝鮮半島では米軍の後方支援に回ることになる」と語った。

 香田氏がとりわけ強調したのは日韓秘密情報保護協定(ジーソミア)の重要性だった。

 「ジーソミアは日韓で情報を共有していこうとするもので、これで日韓の合同作戦がやりやすくなる。日韓では言葉も文化も戦略も違うが、情報共有することは重要。日本は強く希望している。早く韓国議会が批准してほしい」(香田氏)

 これに対し金氏も「北朝鮮の核がどこに向いて飛んでいるのか、情報共有しないと防衛は難しいし訓練さえできない」と述べ、香田氏に賛同を示した。

 日本と韓国の間で秘密軍事情報を提供し合う際、第三国への漏洩(ろうえい)を防ぐために結ぶ協定であるジーソミアは、4年前に締結される予定だったが、韓国側の都合により締結予定時刻の1時間前になって延期され、そのままになった経緯がある。