迎撃ミサイル「THAAD」とは?
特報’16
韓国が配備決定、日本も検討中
高高度迎撃で重層的に防衛
北朝鮮の弾道ミサイル攻撃に備える地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」が在韓米軍に配備されることが決まり、北朝鮮のミサイル脅威にさらされている日本でも改めてTHAADへの関心が高まっている。THAADとはどのようなシステムでどのような迎撃能力を持っているのだろうか。(編集委員・上田勇実)
THAADは敵の弾道ミサイルが大気圏外から圏内に再突入する前後の終末航路の段階(高度40キロ~150キロ)でこれを撃ち落とすために米陸軍が開発したミサイル防衛(MD)の核心的手段の一つだ。
迎撃方法はマッハ4~10の高速で落下してくる敵ミサイルに正面衝突させ、これを撃破するというもの。高高度であるため破片の地上落下や核弾頭炸裂に伴う放射能被害を最低限に食い止めることが期待されている。
今回、韓国への配備は米軍保護のため在韓米軍が導入するものだが、実際は首都圏の一部を除く韓国全域まで防衛できる。約1000億円と言われるシステム一式の費用は米側が負担し、韓国は配備先の南東部・星州(慶尚北道)にある空軍基地の敷地などインフラを提供。来年末までに配備される予定だ。
日本も韓国もすでに北朝鮮ミサイルの射程圏内にあり、MD網の点検・強化は至上課題だ。北朝鮮が保有する弾道ミサイルのうち短距離のスカッドB(射程300キロ)、スカッドC(同600キロ)、中距離のノドン(同1300キロ)などが日韓両国を射程に実戦配備済みと言われる。
またこれ以外に先月の試射で射程延長や大気圏再突入の技術などで一定の成果を挙げたとみられている中距離弾道ミサイル、ムスダン(同2500キロ~4000キロ)、今年2月の発射でフィリピン沖に落下した大陸間弾道ミサイル(ICBM)級のテポドン2号などの改良を急ピッチで進めている。これらは米軍基地があるグアムや米本土への攻撃まで想定したものと言われ、日米同盟の下で日本の役割が重要になってくる。
韓国の迎撃体制はこれまで一段構えだった。ドイツから購入した中古のパトリオット2(PAC2)と在韓米軍に配備されているパトリオット3(PAC3)による上空20~30キロの低層迎撃のみだ。「迎撃率は80%程度」(元韓国陸軍関係者)で、高速ミサイルの迎撃に課題を残しており、地上への被害も憂慮される。
これを補うのがTHAADだ。導入されればまずはTHAADで高高度迎撃し、打ち損じをパトリオットで低層迎撃するという二段構えが可能となり、「本来は多層迎撃体制を敷くべきミサイル防衛の理想に一歩近づく」(朴輝洛・国民大学政治大学院院長)。
THAAD韓国配備には中国が強く反発した。米国との軍事的バランスが崩れるのを恐れたという見方や米韓同盟の強化に対する牽制(けんせい)との分析も出ている。しかし、朴槿恵大統領はTHAAD配備の判断基準は「あくまで国家安保と国益」という原則を示し、中国の顔色をうかがうようなことはないという毅然(きぜん)とした姿勢を見せていた。
北朝鮮と地続きの韓国よりも北朝鮮からの距離が遠く、四方を海に囲まれる日本の場合、THAADより射程が長く、機動性が高い艦対空迎撃ミサイルのスタンダードミサイル3(SM3)が迎撃ミサイルとしてより有効とされ、現在、海上自衛隊のイージス艦に配備されている。
これと陸上自衛隊に配備されるPAC3を合わせた二段構えで北朝鮮の弾道ミサイルを迎撃する体制を整えているが、さらにSM3とPAC3が迎撃可能な高度の中間で迎撃するTHAADの導入による三段構えの迎撃を検討中といわれる。
既存の迎撃ミサイルだけでも十分と言われるが、北朝鮮が一度に何百発ものミサイルを発射するなど相手を攪乱(かくらん)させる戦法を取る恐れもある。安全保障、特に核攻撃につながる北朝鮮の弾道ミサイル防衛には万全の態勢が求められる。






