比政府、南シナ海めぐる判決を歓迎
オランダ・ハーグの仲裁裁判所は12日、中国が南シナ海で領有権の根拠とする「九段線」に関して、「歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」との判断を下した。提訴を行ったフィリピンの主張が、ほぼ全面的に認められる結果となった。中国は今回の判決に関して「無効で拘束力はない。中国は受け入れず、認めない」と強く反発しており、これから外交を展開するドゥテルテ政権の動向に注目が集まっている。
(マニラ・福島純一)
中国の「歴史的根拠」を否定
ドゥテルテ政権、刺激避け二国間協議へ
今のところドゥテルテ大統領は、約500ページに及ぶ判決文の解釈作業が終わっていないとして、今回の判決に関するコメントを控えている。閣僚の一人によると、ドゥテルテ氏は判決が出た後に行われた閣僚会議で、勝利に寛大になり中国を刺激しないよう閣僚たちに呼び掛ける一方、今回の判決によって良い立ち位置で交渉が開始できると指摘。アキノ前政権が拒否してきた、中国との二国間協議に応じる構えを見せているという。ドゥテルテ氏は当選前、南シナ海をめぐる問題解決に、日本や米国などの同盟国を含めた多国間協議の必要性を主張していたが、今回の判決により潮目が変わったと判断したようだ。
ヤサイ外相は、記者会見で判決を歓迎する一方、中国に「自制と平静」を呼び掛け平和的解決を求めるにとどまった。法廷での歴史的な勝利にもかかわらず、笑顔を見せないヤサイ氏の表情がメディアで話題となるほど自制を強調したのは、中国を刺激することなく話し合いに臨みたいドゥテルテ氏の意向を強く反映したものとみられる。
またドゥテルテ氏は中国との二国間交渉を始めるにあたり、「戦争という選択肢はない」とした上で、あくまでも話し合いによる協議で問題を解決する姿勢を強調した。次のステップを決定する上で、多くの専門家から助言を得ると述べ、その中の一人として、ラモス元大統領に特使として訪中を要請する方針を示している。しかしラモス氏は高齢を理由に前向きではないとの情報もある。
やはり国内ではドゥテルテ氏がどのような立ち位置で中国に臨むのかに注目が集まっており、アキノ政権から一転して親中に傾くのではないかという懸念も出始めている。国内メディアは「国を売り渡すべきではない」「投資をエサにした罠に陥らないよう注意すべきだ」「親中ではなく親米に」などの専門家の意見を紹介するなど、中国への強い警戒感をあらわにしている。ドゥテルテ氏は選挙キャンペーン中に、南シナ海における中国との共同開発を提言するなど、積極的に中国に対抗してきたアキノ政権とは反対の融和姿勢を強調していた。
一方、フィリピン全面勝訴の結果に喜びを隠せないのは、仲裁裁判所への提訴に尽力した前政権の関係者たちだ。アキノ前政権で外相だったデルロサリオ氏は、「期待を超えた前例のない勝利」と指摘し、「正義は力なり」とその喜びを語った。またアキノ前大統領は、「全ての人々にとっての勝利」と判決を歓迎し、フィリピンだけでなく国際社会の勝利であることを強調。「この長期的な紛争は、間違いなく恒久的な解決に近づいている」と、平和的解決に期待感を示した。ドリロン上院議長は「国連海洋法条約の締約国として判決を順守すべきだ」と、中国を非難している。
今回の判決で中国への国際社会の圧力が高まるのは必至の情勢だ。しかし反発する中国は、判決が出る直前に南シナ海で大規模な軍事演習を行うなど、周辺諸国との対立を深める行動に走っており、むしろ緊張は高まっている状況にある。15、16日にモンゴルで開催されたアジア欧州会議(ASEM)首脳会議に出席したヤサイ外相は、中国に判決の尊重を求めた。今後、ドゥテルテ政権がどのような姿勢で中国に対応するのか、最初の一歩に国民の注目が集まっている。