フィリピンのドゥテルテ政権、共産勢力との和平に期待
今月発足するフィリピンのドゥテルテ政権で、武装闘争を続けている共産勢力との和平に注目が集まっている。フィリピン共産党の創設者で海外に亡命中のホセ・マリア・シソン氏が、近く帰国する方針を固めており、アキノ政権で停滞していた和平交渉が本格的に再開するとの観測だ。しかし、その一方で対米姿勢などをめぐり、互いに相いれない内容も抱えており、和平交渉の難航も予測されている。
(マニラ・福島純一)
依然続くNPAによる襲撃
在留米軍問題などで対立も
ドゥテルテ氏はダバオ市長時代から、フィリピン共産党の軍人部門である新人民軍(NPA)に捕虜として拘束された警官や兵士の解放に尽力するなど、共産勢力に太いパイプを持っていることで知られていた。ドゥテルテ氏は、共産党の指導者であるシソン氏と大学時代に、生徒と教授という関係で交流があり、共産勢力に一定の理解を示している。新政権ではフィリピン共産党に近い人物2人を閣僚を迎える人事を発表し、その「左寄り」が注目を集めている。
シソン氏は、ドゥテルテ政権発足後の7月か8月にも、亡命先のオランダから帰国する方針を示している。既にドゥテルテ氏と水面下での交渉は始まっているとみられており、政府との和平交渉を担当している共産党の政治部門である民族民主戦線(NDF)は、これまでに逮捕された500人以上の政治犯の釈放を和平交渉の前提条件として盛り込む方針を示している。政治犯をめぐっては、アキノ政権が釈放を拒否したため、和平交渉が決裂した経緯があり、ドゥテルテ政権では受け入れるとの見方が強い。
またNDFは、米政府が2005年に、NPAを国際テロ組織に指定したことにも強い反発を示している。NDFはアロヨ政権で、テロ組織指定の解除を米政府へ働き掛けるよう求めたが、拒否されたため和平交渉が打ち切られた経緯があり、この問題はドゥテルテ政権でも再浮上する可能性が高い。
さらに、アキノ政権で締結された比米防衛協力強化協定(EDCA)をめぐってもNDFは反発しており、乗り越えるべき課題は増えている状況だ。和平交渉を進める中で、米国との同盟関係が争点となる可能性もあり、ドゥテルテ氏の手腕に注目が集まる。
EDCAはフィリピン国内での一時的な基地建設など、米軍の活動をより拡大する協定で、南シナ海における中国の進出を牽制(けんせい)する目的で、14年にオバマ米大統領のフィリピン訪問に合わせて締結された。上院の批准の必要性など、違憲性を指摘する意見も根強かったが、今年1月に最高裁が合憲判決を出している。
共産勢力の軍人部門であるNPAは、ルソン島での勢力は弱体化しつつあるが、鉱山企業が多く進出している南部のミンダナオ島では、依然としてその存在感を維持している。11年には、北スリガオ州タガニート地区にある日系鉱山プラントを約200人のゲリラが襲撃し、施設や重機を破壊するなどして莫大な損害を与えるなど、進出企業にとって大きな脅威となっている。NPAは勢力地域にある企業に「革命税」を要求し、これを資金源としている。支払いを拒否した企業に対して襲撃などの営業妨害を繰り返すだけでなく、選挙期間中には候補者に選挙活動を容認する見返りに金銭を要求することでも知られている。
このような和平ムードにもかかわらず、NPAは依然として反政府活動を継続している。5月22日には東ダバオ州で、約70人のゲリラが警察署を襲撃し、署長を拉致して連れ去る事件が起き、ドゥテルテ氏が人質の解放を求めている。
ドゥテルテ氏は、地元であるミンダナオ島の発展を促進したい考えを示しているが、それには進出企業をターゲットに恐喝や襲撃を繰り返している共産勢力との和平が重要な課題となるのは言うまでもない。